研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野(2023年)

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エグゼクティブサマリー

本報告書は、JST-CRDSが、国内外の最先端で活躍する研究者の協力を得て、ライフサイエンス・臨床医学分野における研究開発の全体像を俯瞰的に調査した結果をまとめたものである。

ライフサイエンス・臨床医学分野は、生命現象の根本原理を見出し、そこに介入する技術の創出と社会実装を通じて、ヒトおよび地球規模の健康、そして持続可能な社会の構築に寄与する研究開発分野である。
生命現象の根本原理を見出すためには、新たな概念の創出に加えて計測・観測技術の進展が極めて重要であるが、そこでは、生物学だけでなく、化学、物理学、情報科学、工学など多くの分野との密接な連携が求められる。社会実装を目指す際には、社会の要請や市場動向の把握、法規制への対応、経済性の確保、スタートアップの活躍、先端技術の社会受容など、様々な観点を踏まえた取り組みが重要となる。また、目覚ましい進展を見せているデータサイエンスはますます重要な位置を占めつつある。
当該分野の研究開発は、基礎研究から見出された知見や技術シーズが、実用化と小規模な実践を経て社会実装に至る過程で、その意義や効果が科学的に計測され、社会実装後に新たな課題の抽出、仮説の設定を行い、基礎研究に還元されるという循環構造をとることが重要である。この循環においてはELSI、科学と社会の協働が欠かせない。

多様な社会的課題および経済的課題を解決しうる先端技術開発や研究開発への高いニーズとともに、それらが持続可能性を同時に達成することも強く求められている。ここでいう持続可能性の確保とは、地球環境保護の観点だけでなく、有限な人的資源や経済も包含する。地球環境だけでなく、ヒトの健康と医療をも含めた持続可能性の確保の重要性は、プラネタリーヘルスという概念として知られており、この観点を踏まえて俯瞰を行った。

本報告書の第1章では、科学技術の動向や今後の展望等について、社会との関係に着目した分析を行った。また、第2章では、社会・経済的インパクト、エマージング性、基幹性の観点から30の研究開発領域を抽出し、トレンド、トピックス、国際ベンチマークをまとめている。
国際ベンチマークの視点からは、日本では、基礎研究が活発に行われている研究開発領域は多いが、基礎研究の成果が応用に結び付いていないことが見て取れた。米国等では基礎研究と応用研究がうまく連動しているのに対し、日本ではうまく機能しない構造になっているように見受けられる。

以上のような俯瞰を踏まえて、当該分野の進むべきマクロな方向性を抽出した。さらに、わが国として重要となる研究開発の方向性と研究開発体制・システムの在り方を示した。
これら重要な研究開発の方向性に共通して、データ駆動型アプローチの重要性が増している。データ駆動型アプローチでは、数理・情報系研究者をはじめとした異分野研究者が集結できる体制を構築することが重要である。また、推進体制として重要となるスタートアップ・ベンチャー企業の育成などイノベーション・エコシステムの構築と人材育成に関しては、わが国の制度・仕組みを踏まえた戦略的な取り組みが求められている。

※本文記載のURLは2023年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。

目次

研究開発の俯瞰報告書 ライフサイエンス・臨床医学分野(2023年)

1.俯瞰対象分野の全体像

  • 緒言 生命科学・臨床医学のこれから:データ科学の胎動
  • 1.1 俯瞰の範囲と構造
    • 1.1.1 社会の要請、ビジョン
      1.1.2 科学技術の潮流、変遷
      1.1.3 俯瞰の考え方(俯瞰図)
  • 1.2 世界の潮流と日本の位置づけ
    • 1.2.1 社会・経済の動向
      1.2.2 研究開発の動向
      1.2.3 社会との関係における問題
      1.2.4 主要国の科学技術・研究開発政策の動向
      1.2.5 研究開発投資や論文、コミュニティー等の動向
  • 1.3 今後の展望・方向性
    • 1.3.1 今後重要となる研究の展望・方向性
      1.3.2 日本の研究開発の現状と課題
      1.3.3 わが国として重要な研究開発
  • 結言 ライフサイエンス・臨床医学を巡る諸課題とプラネタリーヘルス

2. 俯瞰区分と研究開発領域

付録