調査報告書
  • 科学技術イノベーション政策

ポストパンデミック時代における科学的助言のエコシステムの構築に向けて-新型コロナウイルス感染症対応の課題と今後の方向性-

エグゼクティブサマリー

本報告書の目的は、国内外の新型コロナ対応で明らかになった科学的助言の重要論点や事例を整理し、我が国における科学的助言システム全般のあり方を検討していくに際して参照され得る基礎資料を提供することである。

新型コロナウイルス感染症は、従来の科学的助言の議論に根本的な再考を迫ることとなった。新型コロナウイルス感染症の感染拡大を契機に、危機時の科学的知見の利活用、専門家と政府の役割と責任、専門家による社会への情報発信、科学的助言への信頼や共感の担保、領域横断的な専門知識の統合と活用、データの収集と分析、政府と地方自治体の調整、グローバルなレベルでの危機対応など多岐にわたって議論が起こった。現在、今般の感染症対応に関わる科学的助言を検証し、今後の危機対応に向けた教訓の抽出、および、 科学的助言システム全般の再構築に関する検討が国内外で進んでいる。

我が国では、2010年代後半から、エビデンスに基づく政策形成に向けた検討と実施体制の整備が本格的に進められている。第6期科学技術・イノベーション基本計画では総合知の創出・活用が掲げられ、知の融合により、人間や社会の総合的理解と問題解決に資する政策が目指されている。こうした動向は、科学的助言がいかにあるべきかを考え直す上で無視できないものである。多様化するエビデンスを統合し、科学と政治・行政が協働して、様々な社会課題に対応していくことが、科学技術・イノベーション政策全体の視点からも強く求められている。

新型コロナ対応で露呈した科学的助言の課題は、2010年代の世界の潮流の大きな変化と対応している。近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展は、科学的助言におけるエビデンス基盤の変容をも たらしている。新型コロナ対応における科学的助言で露呈した科学と政治の関係性の問い直しや、科学や政治に対する信頼の揺らぎは、ポスト・トゥルース(客観的な事実よりも個人の信念や感情が世論形成に影響を与えるという状況)の時代背景と重なっている。多様なステークホルダーとのコミュニケーションやエンゲージメントの重要性の高まりは、持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて、社会的脆弱性や差別が世界の取り組まなければならない喫緊の問題として認識されるようになってきたことと密接に関係している。一方 で、国際協調に向けた世界の動きは混迷を深めており、新たな局面を迎えつつある覇権争いのなかで国際的な科学的助言の再構築が必要となることが考えられる。

科学的助言への期待は時代と共に変化してきた。科学的助言という言葉自体がもつ、科学側から政治・行政への一方向的な知見の提供をいかにすべきかという従来の構図を超えて、科学的助言を取り巻くアクター の多様化を前提としたシステムへの移行が求められている。同時に、科学的助言の基盤である科学自体の質 やインテグリティの確保が困難になる状態も避ける必要がある。これらの状況を踏まえつつ、将来の危機に対応できるよう、科学的助言の仕組みを再構築することが求められている。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。