調査報告書
  • 環境・エネルギー

文理融合研究のあり方とその推進方策 ~持続可能な資源管理に関する研究開発領域を例として~

エグゼクティブサマリー

第6 期科学技術・イノベーション基本計画では、「⼈⽂・社会科学の厚みのある『知』の蓄積を図るとともに、⾃然科学の『知』との融合による、⼈間や社会の総合的理解と課題解決に資する『総合知』の創出・活⽤がますます重要」と謳っている。これを受けて関連府省では、「総合知」の創出・活用をどのように推進するかの検討が進められている。一方、「総合知」に類似することばとして「文理融合」がある。人文 社会科学系研究者と工学・自然科学系研究者の協働に基づく研究活動(以下、「文理融合研究」と呼ぶ。)に関しては先行的な研究プログラムやプロジェクト等を通じて支援が行われてきている。これらの取組みを改めて振り返り、理解を深めることは、「総合知」の推進にむけた検討にとっても有益と考えられる。 JST–CRDSでは、持続可能な資源管理に関する研究開発領域における文理融合研究の特徴を検討することにより、「総合知」に関するこれからの検討・取り組みへの示唆となる知見を整理することを目的とした。検討にあたっては、持続可能な資源管理に関する研究開発領域において、これまでJSTをはじめ国による支援を受け実践的研究プロジェクトをおこなってきた研究者と、研究プロジェクトを束ねるプログラムのマネジメントに携わってきた経験をもつ有識者らを招聘し、ワークショップ形式の議論を計6回おこなった。一連のワークショップ形式での議論を通じて得た知見については以下の通りである。

まず、本研究開発領域において文理融合研究がもたらしたものとしては、複合的な価値を組み込んだ成果物の創出、ならびに、研究者自身と研究者コミュニティの変化が挙げられた。具体的には、環境改善の事業を地域住民や地域行政と協働で実践できたこと、地域再生に向けたシナリオやモデル開発ができたこと、社会システムの変革をもたらしたこと、ならびに、異なる視点の交流を通じた新たな発見と自らの思考が変化したことである。一方、研究プロジェクト実施の際の困難については文系研究者が形式的な立ち位置になりがちであること等が挙げられた。その背景となることがらとして、プロジェクト型研究との親和性や対応力の差、業績評価の違いによるモチベーションの差など、文理の間の様々な相違が指摘された。

次に、本研究開発領域における文理融合研究実践の難しさを3つのレベル(プロジェクトレベル、プログラムレベル、研究組織・ネットワークレベル)に分けて整理した。本研究開発領域では長期的な取組みが不可欠であることから、望ましいファンディングの仕組みとして短期間の研究プロジェクトを複数のファンディングプログラム間で橋渡しする、あるいは、常設組織において長期間見守る、という2つのかたちが考えられる。個々の文理融合研究の推進にあたっては、ファンディングプログラムには、①プロジェクト進行の過程で生じる予期せぬ展開に柔軟に対応する、②個々のプロジェクトの枠を超えた人的つながりを促進する構造を構築する、③文理融合研究の特徴を経験的に理解している審査・評価者を確保する、ならびに新たな挑戦を促すような評価基準や複合的な成果を前提とした評価方法を確立する、といった点が重要と考えられる。より長期の視点からは今後の文理融合研究推進に向けた方策としてプログラムあるいは事業の内に継承の仕組みを設けること、ならびに、学問領域としての文理融合研究の成熟支援に向けた仕組みを検討することを挙げた。

※本文記載のURLは2022年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。