俯瞰ワークショップ報告書
  • 情報・システム

システム・情報科学技術分野 数学と科学、工学の協働に関する連続セミナー

エグゼクティブサマリー

 本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が2020年10月から2021年2月まで、全16回にわたって開催した『俯瞰ワークショップ システム・情報科学技術分野「数学と科学、工学に関する連続セミナー」』に関するものである。

社会課題の解決に向けた科学技術にはシステム・情報科学技術、ナノテク・材料技術などさまざまなものがある。それらはロボティクスやAIなどの成果を通じて社会で活用される。この目に見える成果を下支えするのが工学であり、自然科学である。さらにその根底には数学が存在し基礎を支えている。数学と科学、工学が協働し、科学技術を通じて社会の課題解決に貢献しているのである。また科学技術の社会適用から得られる新たな課題を受け取り、科学技術の基礎としての次なる発展を目指す。このような循環を描くことで社会のイノベーションを実現していくのである。
JST研究開発戦略センター(CRDS :Center for Research and Development Strategy)では、数学と自然科学、工学の連携についての俯瞰調査、政策提言を目指して、2020年から活動を開始した。まず、現状の数学と自然科学、工学の連携の状況を調査するために連続セミナーを企画した。2020年10月から2021年2月まで、全16回のセミナーを開催した。31名の多彩な講師をお招きし、各回1時間30分にわたり、主に基礎的な数学とその応用を組み合わせて、それぞれアカデミアとインダストリーから1名ずつの講師による講演と質疑応答を行なった。セミナー聴講の申し込みは、各省庁並びに関係機関、アカデミア、インダストリーなどから120名超に及び、各回においても40名を超える参加者を得た。本報告は、講演録を中心として、数学に関する考え方、CRDSの取り組み等について述べたものである。

日本に限らず,世界はビッグデータ・AIが席巻する社会となりつつある。AIなどの先導もあり、広い意味で企業における"数学化"が進んでいるかのようである。しかし、日本においては AIに関しても工学的利用のみが大きく進んでいるように見受けられる。AIを利用する研究や開発には、より深い数学・数理科学の裏づけが必要である。いまだ多いAIに存在するブラックボックス、背後に動くアルゴリズムにおけるリスク可能性やAIが導く結果の検証や評価においては、確実性を高め信頼性への配慮を怠るわけにはいかない。また、安定した持続的な力を備えるためにも、将来に続く今後の人材育成に多くの力を注いでいく必要がある。したがって、わが国の将来を考えると、大学等の学術機関はもとより、産業界での真の意味での数学利用、産業数学、数理科学研究の振興が必須である。CRDSでは、わが国における科学技術政策に関する think tank として、今後の日本において必要なことはもちろん、世界的に高まる数学・数理科学の役割をどう推進していくべきかの調査・検討を進める予定である。そこでは、国際的な比較や積極的な情報収集に基づき指針をまとめて提言に向けたい。本報告集はその序章・前段階であり、指針作成の第一歩として位置付けている。数学・数理科学とその応用分野の発展に皆様の深い関心が寄せられることを期待する。

※本文記載のURLは2021年3月時点のものです(特記ある場合を除く)。