戦略プロポーザル
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Society 5.0実現に向けた計算社会科学

エグゼクティブサマリー

 計算社会科学に関連する、社会データマネジメント、社会シミュレーション、社会シミュレーション利用方法・利用環境の研究開発を提案する。計算社会科学は、IoT(Internet of Things)やスマートフォン、SNS(Social Networking Service)の普及で入手できるようになった個人の行動データや投稿データを利用する学問領域であり、従来アンケートや小規模な実験データに頼っていた社会科学を新たなレベルに発展させる。サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムで新たな社会を作るSociety 5.0を実現するにあたって、計算社会科学はビッグデータに基づく実証研究と、社会シミュレーションによる理論研究の双方に軸足を置いた研究分野である。本プロポーザルでは、意思決定・合意形成に資するように、さまざまな施策に対して社会がどのような反応を示すかを社会実験のかわりにシミュレーションを使って提示するツールの研究開発を提案する。
 社会データのマネジメントには府省庁のITシステムに集められるデータに対するデータ項目の統合、カタログ化、オープン化、プラットフォームの構築といった情報科学的課題と、自治体ごとに微妙に異なる形で規定されている個人情報の取り扱いの統一、データの保護だけでなく利活用のためのルール整備、公正・公平に活用するデータ倫理の検討といった社会科学の知見を活用することが必要な課題がある。その上で、集めたデータをもとにシミュレーションが可能な社会モデルを構築することは、情報科学と社会科学が協力して解決すべき課題である。
 社会シミュレーションは、個人が周りの人や環境とのインタラクションを通じて,どのように行動を最適化するかをモデル化した社会モデルに基づいてエージェントを設定しシミュレーションする。従来は社会の理論的研究として行われることが多い社会シミュレーションであるが、利用範囲を理論的研究にとどめず、データ同化等による精度向上を通じて、施策に対して予測される社会の反応を提示することを目指す。
 社会シミュレーションが提示する施策の効果は可能性としての提示であり、その結果に応じて機械的に施策を適用するものではない。しかしながら、シミュレーションの結果によっては大きな社会的影響がもたらされるため、開発当初から社会実装を見据えて十分に配慮する必要がある。シミュレーションへの入力データ、パラメタ、モデルで想定されている因果関係についての十分な検証と説明がないと、シミュレーション結果への信頼が得られない可能性がある。したがって、どのような説明を行い、どういった社会課題に適用していくかというシミュレーションの利用方法・利用環境に関する研究開発も欠かせない。想定される利用領域は、予防医療、感染症対策、労働環境、シェアリングエコノミー、防災、フィンテック、レグテック、経済シミュレーション、福祉政策など幅広い。限定された領域での実証を積み重ねて利用範囲を広げていくような推進方策を想定している。
 学際領域である計算社会科学の研究開発を推進するためには、社会科学と情報科学の両方に精通した人材の育成や研究評価をどのように行うか、といった問題の検討も必要である。さらに、社会データに表れにくいマイノリティーへの配慮をどのように行うのか、という視点も重要である。このような課題を具体的に解決するために、社会データを利用した社会シミュレーションの結果を確認し評価する手法の実現が求められる。

※本文記載のURLは2021年2月時点のものです(特記ある場合を除く)。