科学技術未来戦略ワークショップ報告書
  • バイオ・ライフ・ヘルスケア

ヒト微生物叢(microbiome)に関する研究開発戦略のあるべき姿

エグゼクティブサマリー

 国立研究開発法人科学技術振興機構研究開発戦略センター(以下「JST-CRDS」)は、わが国の社会経済の持続的発展のため、科学技術イノベーション創出の加速に向けた諸方策の提言および実現に向けた取り組みを実施している。平成25年度から平成26年度にかけて、JST-CRDSライフサイエンス・臨床医学ユニットにおいて、国内外のライフサイエンス・臨床医学分野の研究開発動向を文献、有識者との意見交換などを通じて俯瞰し、全11回の俯瞰ワークショップを通じて議論を重ねたところ、わが国がトップダウンで推進すべき重点研究開発領域として「ヒト生体上皮環境(微生物叢)」が抽出された。平成27年度、「ヒト生体上皮環境(微生物叢)」に関する深堀調査を実施し検討を重ねたところ、わが国において推進すべき研究開発戦略に関する仮説の構築に至り、仮説検証のためのワークショップ(以下「WS」)を平成27年12月6日(日)に開催した。本報告書はWSにおける議論の概要について取りまとめたものである。

 WSにおいて、ヒト生体上皮環境(微生物叢)に関するこれまでの研究動向、今後の研究開発の方向性、わが国が推進すべきテーマ、波及効果などについて議論を行なったところ、次の結果が得られた。
まず、欧米の大型プロジェクトで、ヒト微生物叢に関する公共の基礎データがある程度整備され、これからは機能解析に向けた研究を推進すべき時期にあることが確認された。機能解析において必要な研究・技術(例えば難培養微生物培養技術、ノトバイオート技術、メタボローム解析技術、小腸内視鏡技術、免疫研究ほか)はわが国が世界トップレベルの強みを有するものが多く、それらを最大限活用することで世界をリードするインパクトの高い成果創出が期待される。また、欧米の収集した基礎データでは、日本人特有の情報(日本人健常者情報、日本人特有の細菌)が不足しているため、機能解析に向けた研究の基盤としての情報整備も強く求められる。具体的には次のテーマ設定の重要性が見出された。
【柱1】生体恒常性の維持・破綻機構の理解
【柱2】健康・医療技術の創出
【柱3】研究・技術基盤の整備・活用
推進方策として、「柱3」に挙げた技術・情報基盤を整備し、「柱1」「柱2」を担う全国のアカデミア・企業研究者との連携を図ることが効率的・効果的であると考えられた。
 また、ヒト微生物叢研究の推進による波及効果はきわめて大きいことが強く認識された。ヒト微生物叢の理解は、様々な生命現象を解き明かす重要な切り口になるだけでなく、健康・医療産業へのインパクトも期待される。