- バイオ・ライフ・ヘルスケア
グリーンバイオ分野における研究開発の重要課題と統合的推進 ~イノベーション創出と持続可能な社会の形成へ向けて~
エグゼクティブサマリー
科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)(以下JST-CRDSと表記)は、科学技術に関する網羅的な動向把握(俯瞰調査)、分析、提案を実施する公的シンクタンクの1つである。2014年7月、CRDSメンバーを中心にJST内で横断的に組織されたグリーンバイオ横断グループは、グリーンバイオ注)分野の技術に関する科学研究の現状分析や、諸外国の橋渡し研究の現状調査をもとに、わが国の課題の抽出・分析を行なってきた。本調査報告書は、上記の調査結果をもとに、グリーンバイオ分野の研究開発の最先端の動向を見極め、わが国の強みのある分野および優先的に実施すべき研究開発項目の提示と、その実現のための具体的方策や今後の施策立案に対する示唆を取りまとめたものである。
地球規模では、人口の増大に伴う食料問題、地下資源の乱用、CO2排出増大に伴う環境変動、といった喫緊の課題が山積している。国内では少子高齢化で国内の食料需要は減るものの、就農人口の激減のため、食料自給率は依然として低迷を続けると予想される。つまり今後も長い期間にわたり、国内外の両方で食料生産を持続的に維持する基盤が必要である。農業関連以外でもグリーンバイオ分野は21世紀の持続可能な社会の確立に向けたニーズに対応する必要がある。一つには、化石資源の燃焼や大量消費による大気中CO2の濃度上昇を抑えるため、非可食生物資源のより効率的な生産と利活用、すなわち既存のオイルリファイナリーからバイオリファイナリーへの転換が求められている。このバイオリファイナリーに供する生物資源は、食料生産と競合せず、温室効果ガスの排出などの点で環境への負荷が低く、エネルギーや地下資源由来物質の投入も低い必要もある。またさらにもう一つの重要な観点は、人間活動で失われ続けている生物多様性について、その全体像および価値を把握し保全を推進しつつ、その中から利用可能な資源や情報を抽出し利用していく取り組みである。
以上のように、グリーンバイオ分野が貢献しうる研究開発領域は、(1)食料生産と安全保障、(2)物質生産とバイオリファイナリー、(3)生物多様性と環境リノベーション、と幅広い。それらを広く俯瞰し、重要な研究開発課題を抽出し深く掘り下げる形で本調査報告書は構成した。
これまでの調査で明らかとなった、社会的背景と科学技術の現状に関しては第1章で、調査を通じて抽出した重要研究開発課題9項目について、第2章で述べた。9課題それぞれについて、「概要」「研究開発内容」「適時性」「研究成果によって期待される効果・将来性」について記述し、内容を端的に説明する概念図を2つずつ示した。第3章では、特に「食料生産と安全保障」の研究開発領域を例に、今後あるべき研究開発体制「アグリフードピア」について言及した。第4章では2015年度にグリーンバイオ分野が企画して開催した2つのワークショップの内容についてまとめた。