調査報告書
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ビジネス・ロジスティクス研究開発の現状に関する調査報告書

エグゼクティブサマリー

科学技術分野の研究開発成果を社会的な便益として還元することへの期待が世界的に高まっている。CRDSでは、社会的期待と科学技術研究開発テーマとの「邂逅」に基づく、課題解決型研究開発戦略の立案方法の構築に取り組んでいる。その活動の一つとして、エネルギーに関する課題解決型研究開発戦略、特にわが国の都市におけるエネルギー利用や消費の高効率化を課題とした研究開発の在り方について「都市から構築するわが国の新たなエネルギー需給構造」を提言した(2)。その中で「都市部街路における自動車交通の効率化」がエネルギーの効率的利用に関わる重要な研究開発領域の一つとしてあげられている。これは、人の移動の効率化とともに、物の移動を効率化することによって実現されるものである。

わが国おける大きな社会課題の一つに少子高齢化があげられる。経済活動の面からは、少子高齢化による労働者人口の減少が懸念されている。また、都市化の進展によって人口や各種機能の過密化が進む一方で、過疎化が進む地域が発生してくる。その結果、都市部では多様で多頻度な需要に供給が十分に追いつかなくなること、過疎部においては稼働率低下によるコスト面での非効率性が大きな問題となる。特に流通・物流に関連する分野は、このような問題点が顕在化しやすいことが懸念される。

社会の経済活動を支えているのは、人や物の流れである。とりわけ物については、暮らしを支えるさまざまな商品や製品において、原料調達から生産や販売を経て、顧客の手元に届き消費され、さらにその後は廃棄されるという一連の流れ、すなわちサプライチェーンが形成されており、我々はそれによって便益を享受している。この点において物の流れの本源的需要は「商取引」である。

情報通信技術(ICT)の進展は、流通や物流においてもネット通販の普及拡大などの変革に大きな影響をもたらしている。最近のIoT(モノのインターネット)やCPS(サイバー・フィジカル・システム)などの技術やシステムは、従来のビジネスや考え方を古いものとし、これまでの社会・経済構造を大きく変革する可能性がある。ドイツにおける「Industrie 4.0」も、ICTを活用して各種機器や工場、中小企業を連携し、製造業、及び関連する物流のあり方を根本から変革しようとしている。加えて、自動走行システムや無人飛行機、3Dプリンタなどの新しい技術の進展や普及も、社会・経済構造の大胆な変革に繋がる可能性がある。

一方で、物流に関わる分野は、これまでに構築されてきた社会・経済構造において多様なステークホルダーが存在し、流通構造の複雑さなどの現状を踏まえると、技術的優位性だけで変革できるものではないことが予想される。こうした観点からの技術的な伸び代も整理しておくことが必要である。

本報告書では、経済活動を目的とした物の流れである物流に関する戦略や計画である「ビジネス・ロジスティクス」に焦点を当て、その国内における現状、及び科学技術の観点からの課題を示した。さらに、それらの課題に取り組むために解決しなければならない問題点について整理した。