調査報告書
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米国「科学イノベーション政策のための科学」の動向と分析

エグゼクティブサマリー

文部科学省で「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」(SciREX)が開始された2011年以降、様々な取組みが行われてきた。2015年には事業開始から5年経つことから、得られた研究成果を総合的に評価し構造化する方法論の開発や政策形成においてエビデンスを活用するプロセスに関する検討も必要である。その取組みに向け、日本のSciREX事業より5年早く米国で開始された、政策の立案のために必要な科学的根拠を生み出すための研究促進事業であるSciSIPを調査し、その現状と成果を把握することは非常に有意義だと考えられる。

米国における当該研究促進事業の嚆矢は、2005年にマーバーガー前米国科学技術政策局長兼大統領科学顧問が科学政策の決定における政策担当者をサポートするために必要なデータ、ツール、方法論を生み出す実践コミュニティの構築の必要性を提起したことによる。以降、省庁連携タスクグループが発足し、学術研究促進のためのプログラムであるSciSIPが2007年から開始されたのに合わせて、2008年には「科学政策の科学:連邦研究ロードマップ」が発表され、2011年にハンドブックが出版された。また、事業の枠組みが順調に整っただけでなく、SciSIPの採択研究数においては、初年度以降年間30件前後の研究が採択されており、NSFのSciSIP予算も1千万ドルでほぼ横ばいで推移している。本報告書では、採択研究の内容、実施研究機関の推移を分析し、SciSIP事業の変遷を明らかにした。また、「科学政策の科学:連邦研究ロードマップ」に関する米国でのアンケート調査結果を分析しており、SciSIPコミュニティの中における政策担当者と研究者の認識の違いを明らかにしている。

また、2009年に制定された米国復興・再投資法の要請で、SciSIPの研究の基礎となるデータ・情報基盤としてSTAR METRICSが整備・拡大されている。これは、大学に所属する研究者ごとの公的研究資金、研究成果、支出に関わるデータをこのプロジェクトに参加する大学間で統合し、さらに省庁が保有するデータとリンクさせるものである。これにより、公的研究開発投資の大学研究への影響評価が可能になり、SciSIPの採択研究に広がりがもたらされることになった。STAR METRICSは2015年以降新たな動きを見せており、2つの大きな方向性について本報告書では言及した。

2009年のオバマ政権誕生以降、SciSIPプログラムは比較的順調な発展を遂げているように見える一方で、緊縮財政の影響は依然として変わらず、連邦政府による科学技術投資を巡る環境はますます厳しいものになっている。その結果、政府資金の使途ともたらされた成果について米国議会は厳しい精査を求め、そのエビデンスに基づいた政策立案を要求する動きが強いものになっている。本報告書では、米国科学技術政策におけるエビデンスを創出するため、SciSIPプログラムに課せられた役割とその変遷を辿る一方、現在のプログラムの抱える問題点および目指す方向性を探った。