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システム構築型イノベーションの重要性とその実現に向けて

エグゼクティブサマリー

 JST-CRDS のシステム科学ユニットは、科学技術政策の転換に呼応し、分野の統合を先導する科学の振興とそれを基盤とした科学技術の社会還元を目指す研究開発の戦略を立案するために、2009年10 月に発足した。すでに述べた我が国の技術力の弱点は「システム化」の弱さに凝縮されることは多くの識者の指摘するところであり、その意味でシステム科学技術に特化した研究開発の戦略に携わる部門の設置はタイムリーな施策対応であって、その活動は我が国の技術の競争力回復と科学技術のレベルの底上げに極めて重要な意味をもつと考えられる。このプログレスレポートは、システム科学ユニットの発足以来 4 年余の活動状況を振り返り、解決すべきシステム化の課題と今後必要な施策について述べている。システム科学技術の学術としての定位については「研究開発の俯瞰報告書システム科学技術分野(2013)」で詳しく調査解析しており、本稿は現実の課題達成に焦点を絞ってそれを補完するものである。
 2013年6月に総合科学技術会議は「科学技術イノベーション総合戦略」(以降「総合戦略」とする。)を発表した。「総合戦略」はいくつかの具体的な研究開発の柱とともに、それらに横串を通す「視点」を提起している。そのひとつとして「システム化」があげられている。確かに「総合戦略」で提示されている課題の多くは「システム化」が課題達成への重要な視点を与えているだけでなく、実際にシステムを構築することがそれらの達成に直結している。しかし「総合戦略」にはシステム化への駆動力をどのように生み出し、それを課題達成にどのように結びつけて行くか、の具体的な施策が見当たらない。このレポートでは「システム化」を日本の科学技術に定着させ、それを通して科学技術の社会貢献を増強するための概念として、「システム構築型イノベーション」を提案する。
 「システム構築型イノベーション」は、システム科学ユニットのこれまでの活動から導き出された結論であり、日本の社会が現在必要としているイノベーションの一つの形である。これは望ましいシステムを社会に構築することを目標とする新しいイノベーションの型であり、基礎研究、応用研究、実用化研究を「一気通貫」する理念、枠組み、手法にもとづくプロジェクト型の研究開発がそれを駆動する。具体的なシステムの社会実装が必達の目標とされるために、関連する要素技術はシステムに統合され社会に設置される。孤立した要素研究のたなざらしは排除される。また、作り上げられたシステムは社会的な文脈での正当性が、一段高い一般性のレベルで保障される仕組みを持っている。「システム構築型イノベーション」は、「システムの時代」といわれる現代社会の実相と、要素からシステムに付加価値が移動しつつある科学技術の現代の位相にもっともマッチした、課題達成型を象徴する研究開発のスタイルである。