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「次々世代二次電池・蓄電デバイス基盤技術」~低炭素社会・分散型エネルギー社会実現のキーデバイス~

エグゼクティブサマリー

本提言は、グリーンイノベーションの中心課題のひとつと考えられる電気エネルギー貯蔵技術を取り上げ、2030年以降を見据えた長期的観点に立って、現在研究が進められている各種二次電池の性能、機能、コスト等を大幅に凌駕する「次々世代二次電池・蓄電デバイス基盤技術」創出の研究開発戦略を提案するものである。自動車等運輸部門に用いられる化石エネルギーの抜本的削減と、新エネルギーの効果的利用ならびに緊急時における電源確保等を狙った分散型エネルギー社会実現においてキーデバイスの一つとされる、二次電池・蓄電デバイス技術に焦点を当てている。用途としては、自動車・輸送機器用(大容量×移動型)、分散エネルギーシステム・定置用(大-超大容量×定置型)を主に取り上げた。なお、革新的な電気エネルギー貯蔵形態としては、現行の二次電池の形を取るとは限らないため、それとは異なる新たな「蓄電デバイス」創出の可能性についても検討に含めている。

現在、本格的な電気自動車の普及を目指した目標値として、エネルギー密度700Wh/kgが示されている(経済産業省2006年)。この目標値は、現行のリチウムイオン電池の延長線上の技術では達成不可能とされている(現行タイプのリチウムイオン電池におけるエネルギー密度の限界は250-300Wh/kg 程度とされている)。またこうした小口分散電源は、非常用電源として安全・安心な社会システムの重要な要素となり得る。いずれもコンパクトで大容量であることと大幅なコストダウンが求められる。現在の各種開発プロジェクトでは、安全性の向上も含め、こうした目標を実現できる見通しは立っていない。現在研究開発中の次世代型電池の、さらに次の技術としては、金属空気二次電池やs-ブロック金属二次電池、多価カチオン二次電池、等が考案されているが、その他の新構造・新概念による蓄電デバイスを含む将来に求められる基盤技術創出には、以下の研究開発課題が想定される。

新材料開発(新電極材料開発、電極界面近傍のナノレベルの三次元構造の最適設計・制御、安全性と高電圧化の両方のバランスを実現する新電解質及び新セパレーター材料開発)
蓄電デバイスシステム新技術開発(新材料の組合せ技術開発、ナノ現象の解明に基づくマクロシステム設計・製造技術開発、安全システム技術開発)
電池反応の現象解明と理論モデル構築(電池反応の直接観察・計測技術開発、性能低下・劣化機構の解明、反応理論のモデル化、計算科学による予測・シミュレーション技術開発)

これらの課題を解決して次々世代の電池を実現するためには、総合的な研究体制を構築しオールジャパンとして戦略的に推進することが不可欠である。特に、現時点での想定を遥かに超えるシーズの発見・着想には、現象解明のための基礎・基盤研究体制の充実、異分野融合研究の促進、継続的なリソース投入と関連研究人材の長期的な育成、基礎・基盤研究と応用開発研究の役割連結が、それぞれ関連をし合って重要な意味を持つ。

また、本イニシアティブの実行の過程で、わが国の電池および関連部素材メーカー、並びにスマートグリッド等の電池システム関連産業の国際競争力の強化、さらに基礎科学における学術分野間の融合促進と研究人材の中長期的な育成を図ることが可能となる。これまでわが国における電池研究は、主として電気化学の分野において進展してきたが、本提言では物理学、特に理論面や固体物理の専門家と、合成化学者や分子設計の専門家との融合研究を取り上げている。加えて上述の高い目標を実現するためにはさらに近年進展の著しい計測技術や計算科学との協働が必須であり、これらの学問領域の融合促進が期待される。