調査報告書
  • 海外動向

日本の専門家による科学技術力の国際比較 ~JST/CRDSによる科学技術・研究開発の国際比較結果のマクロ的応用についての考察~

エグゼクティブサマリー

 有効な戦略立案・提言のためには、国内外の科学技術水準や現在行われている研究開発の動向を比較し、我が国の国際的なポジションを把握するとともに、新しい技術の芽にも注意を払い、今後の研究開発動向を的確に捉える必要がある。そこで、科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)では、2008年より科学技術・研究開発に関する国際比較調査を実施し、その結果を発表してきている。本年6月、2011年3月末までの調査結果をまとめた2011年版を公表した。これは本書の「第一章 1.CRDSの国際比較調査」で詳述する様に、5つの先端技術分野を細分化して合計252の項目(これを中綱目と呼んでいる)で、日本の専門家の意見に基づき調査したものである。このCRDSの国際比較調査は、一つ一つの技術項目の比較としては大変ユニークであり示唆に富むものが多いが、科学技術を大くくりで捉えることに主眼を置いたものではないため、主要国や地域の科学技術力のマクロ的な議論は十分になされていないきらいがある。世界の主要国や地域の科学技術の現状をマクロ的に捉えることは、現在の日本の当該分野における立ち位置やその状況を変えていくための政策作りにとって極めて重要と考えられる。しかし、科学技術政策の分野で現在マクロ的に使用されている指標は、主として研究論文の分析、特許の分析であるが、この二つの指標も万全とは言い難い。そこで、上記のCRDSの国際比較調査結果に着目し、これに分析を加えることによりマクロ的な各国の科学技術力の評価につながらないかと言うのが、今回の試みの問題意識である。今回の試みは極めて初歩的なものと考えられるが、それにもかかわらず、大くくりの分野での各国の科学技術力比較やその傾向変化を示すことができたのではないかと考えている。また、マクロ的な分析を行うことにより、ミクロ的な分析で見えていなかったことがはっきりし、別の切り口の分析が可能となるかもしれないと言う期待も出てきた。一方、CRDSの国際比較調査そのものについての課題や、それをマクロ的に分析することについての課題も見えてきた。今後、これらの課題を十分に考慮し、より精緻化していくことが重要と考えられる。なお本書の元となる国際比較調査は、CRDSにおかれた各分野別ユニットが中心となって実施しており、これに我々海外動向ユニットが独自の分析を加えたものが今回の試みである。このため、元々の国際比較調査で意図していない形での分析となっている可能性があり、国際比較調査の報告書とは別に、独立した報告書として本書を発行することとしたものである。次回以降については、我々海外動向ユニットも調査設計の段階からこの国際比較調査に関与し、マクロ的な分析も併せて実施することを検討していきたいと考えている。