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研究開発戦略立案の方法論 ~持続性社会の実現のために~

エグゼクティブサマリー

 研究開発戦略センター(CRDS)の使命は、国家的見地に立つ研究開発戦略の立案である【1】。研究開発という以上、それは研究結果が社会に貢献する研究を対象とすることになる。とくにイノベーションの基礎であると同時にイノベーションを牽引する研究が重要である。しかしながら、研究の社会への貢献あるいはイノベーションにはさまざまなものがあり、一方研究そのものについても、研究成果が長い期間を経て予想もしなかったような効果を生む場合もあり、また当面の課題の解決のための研究もある。したがって CRDS が戦略立案の対象とする研究は、広い範囲にわたりまた多様である。このことについて理解を共通化しておくために、まず研究目的の観点による以下のような常識的分類で考察してみる。
(1)研究者の内発的好奇心に基づく研究(純粋基礎研究)
(2)研究者が自ら設定した社会的課題の実現に貢献する研究(目的基礎研究)
(3)社会的に合意された社会的課題の実現に貢献する研究(目的研究)
 これは研究の目的が内発的なものから社会の要請へと変わる順序に従っているが、いずれの場合も他からの要請でするものでなく“自発的”に研究するものとする。自発的でないものはここでは研究と呼ばず、除外する。
 この分類が厳密なものではないことは容易に理解される。なぜなら社会的に合意された課題のもとで内発的に好奇心を生じさせることもあるからであり、したがって(1)と(2)、(3)とは交叉する。しかも好奇心とは研究者の属する領域の状況や個人の履歴などに影響を受けるだけでなく、社会的状況にも影響を受けるのが一般であり、それを内発的好奇心と考えるか外在する課題への取り組みと見るかは主観的なものといったほうがよい。そこでここではより簡潔に、研究者の意識に従うこととし
(1)科学のための基礎研究
(2)社会のための基礎研究
という分類を採用する。“ための”が研究者の意識である。一方“基礎”は、その研究が知識体系を豊富にしてそれ以後の研究の実施における根拠となっていることを条件とするもので、客観的に判定される。
 すでに述べたように、社会への貢献の意識を持たない研究がいずれ大きく社会に役立つことが知られているし、また社会のための研究が新しい科学領域を開く歴史もまた一般的であることを考えると、この分類もまた交叉していて厳密なものではないことが明らかである。しかし、国家的見地に立って開発戦略を立てるというCRDS の使命のもとでは、(2)の「社会のための基礎研究」を主として考えることが妥当である。そしてこの中に最初に述べた「イノベーションの基礎であると同時にイノベーションを牽引する研究」を含むものとする。科学と社会との距離が急速に接近する現代の状況ではこのことが強調さなければならないが、それは本書の各所で触れてゆく。