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平成22年度システム科学技術推進委員会 モデリング分科会報告書

エグゼクティブサマリー

 本報告書は平成22年7月から12月にかけて、(独)科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)の主催で4回にわたり開かれた、システム科学技術推進委員会モデリング分科会に関する報告書である。

 本分科会での議論は、他の分科会の議論と合わせて、親委員会であるシステム科学技術推進委員会の検討に反映され、戦略提言『システム構築による重要課題の解決に向けて ~システム科学技術の推進方策に関する戦略提言~』(CRDS-FY2010-SP-04)に結実した。同戦略提言も、モデリングは社会の重要な課題に対し、課題の認識と解決に欠かせないプロセスであることを述べている。すなわちモデリングは、課題の構造化と定量的な把握、異なる関与者間のコミュニケーションと共通的理解の促進、課題解決に向けて構築すべきシステムの立案、等を支援する基盤的方法論の一つと位置付けられている。
 本報告書は、システム科学技術の推進方策の中でも、特にモデリングに焦点を当て分科会で発表され議論された内容をまとめるとともに、モデリングを学として捉えてそのプロセスを俯瞰し、更にモデリング振興に必要な提言を分科会としてまとめたものである。

 モデリングは、これまでも多くの専門家で学術的、社会的、産業的問題解決のため、それぞれの専門分野の知も統合しつつ進められてきた。本分科会においても、4章で詳述されているように、自然科学、環境科学、経済・金融政策、計量心理学、医療マネジメント、システム制御など多用な分野の専門家の参加を得、専門分野で行われている種々のモデリングが、分野共有的なモデリング専門家の研究とともに紹介された(分科会委員をAppendixに示した)。近年、社会が解決すべき課題が、大規模なシステムを対象とする傾向にあり、そこでは、複雑で不確実な経済・社会的要素を含むことが予測され、各分野でのモデリングの重要性はますます増大すると考えられる。

 本報告第1章では、これまで学術的問題解決プロセスの成否が極めて属人的な暗黙知やリーダーシップの中で決まってきたことをある程度認めた上で、上記の社会的課題の趨勢に鑑み、モデルに基づく行動を可能な限り専門分野によらずに形式知化し、透明性の高いプロセス知の実装を難易度の高い社会問題解決に要請しなければならないという問題意識を分科会が共有したことが延べられている。モデリングプロセスを科学的に透明化し形成知化することで、モデリングの妥当性の検証可能性あるいは監査可能性が担保される。さらにモデリングの形式知化を通じて、地の社会共有や次世代学術での再現利用可能性を高めることが可能となるからである。

 更に、第1章では、システム科学の中にあってモデリング学を、社会的期待に応えるためのシナリオやアクティビティのデザイン・実現に資する“モデル”の生成プロセス、すなわちモデリングプロセスを研究し、よりよいモデルを提供するための学術領域と位置づけ、この新たな学術領域の可能性を述べている。

 以上の問題意識のもと、本分科会で議論を重ねた結果、以下の提言を行う。

【提言1】
複雑性・不確実性を有する重大課題の解決に当たっては、モデリングの専門家とモデル利用の専門家が課題解決プロジェクトのメンバーとして参画するか、プロジェクトに対するコンサルテーションを行う事が望ましい。
【提言2】
前記ミッションを遂行するためのモデリングの専門知を体系的に有する、専門職を系統的に育成すうことを目指し、高等教育拠点の全国展開ならびに標準的教育システムの開発が必要である。この実現に向けて、現在全国の大学の様々な学部・研究科に分散しているモデリング知の研究者ネットワークを早急に形成することが望ましい。また、ネットワークのハブとなる機関が設立されることが望ましい。長期的にはモデリング知の専門職の中から、更にモデリング自体の研究を行い、次世代のモデリング専門職を教育する人材の開発を可能とするような、研究教育者を育成する研究拠点の全国的NOEが形成されることが望ましい。
【提言3】
モデリングの知を有効活用するための社会情報データベース、モデル要素の知識ベース、モデル利用知分野にモデラーが引き渡す情報の標準化などの基盤整備活動を早急に行うことが望ましい。その際、これらの活動がこれまで研究活動としては十分評価されてこなかった現状を鑑み、この活動を支援する人材の適切な評価を通じて、実力のある人材が当該分野の活動を支えることに努めなければならない。