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戦略スコープ検討班報告書 「豊かな持続性社会の実現に向けた新たな研究開発課題抽出の試み ~生物多様性と持続的な物質循環の境界領域を事例として~」

エグゼクティブサマリー

 研究開発戦略センター(CRDS)では、「豊かな持続性社会の実現」にかかわる社会的期待を 5 つの要素(健康、生物多様性、持続可能なエネルギーシステム、持続可能な物質 循環、共通基盤事項)から構成されると考え、それぞれを詳細化、整理した上で、対応する研究分野の現状や課題(観察型研究-構成型研究)との接続を見出そうと試みている。本報告書では、社会的期待のうち「生物多様性」および「持続的な物質循環」に関し、互いが重複する境界部分にとくに焦点を当て、文献調査、文献データベース調査、有識者(9 名)へのインタビューを行い、それらをもとに検討した。
 顕在化している社会的期待については、国内外で公表されている主要な報告書等をもとに整理し、詳細化を試みた。「生物多様性」および「持続的な物質循環」の双方にかかわる社会的期待としては、生態系サービスの保持及び持続的利用とそれに深く関連する循環型社会の実現のほか、広域的なモニタリングや情報共有システムの構築、様々な地理的スケールに適用可能な指標の開発、窒素、リン、炭素の持続的循環への対策、等に関するものがあり、それらは既に社会において共有されているものと考えられた。
 有識者インタビューでは科学技術的観点からの課題が確認された。観察型研究に関しては、分野としては生物多様性と物質循環をつなぐ研究領域として、生物地球化学的物質循環の重要性が示された。日本の研究の現状は、生物多様性に関しては長期あるいは広域的視点に基づく統合的な観測、評価、予測体制が不足し、(生物地球化学的な)物質循環に関しては広域のまたは地球規模での観測含めた諸研究が不足しているとの指摘があった。また構成型研究に関しては、順応的管理など、人間活動と地域の自然環境との間で、個々の 事例に即した折り合いのあり方を科学的に検討するための取り組みが重要との指摘があった。
 小規模かつ範囲限定的な試みではあったが、本検討を通じ、当該領域において重要と思われる研究課題は、必ずしも先端的な技術課題に重点があるのではなく、むしろ分野等によって分断された観察型研究をいかに広くつなぎ、統合的に利用し、かつその成果を社会との接点で活用していくか等の側面に含まれることが明らかとなった。よって、この領域において多様な分野の科学者、技術者、社会の行動者を巻き込んで研究と開発を行うための課題を CRDS が抽出しようとする際には、本書を踏まえた入念な検討が必要である。