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CRDSシステム科学ユニット中間報告書 システム科学技術の役割と日本の課題 

エグゼクティブサマリー

 1980年代に日本の製造業は世界を制覇した。家電製品やカメラ、時計、半導体メモリ、AV 機器、自動車などの主要な消費製品とそれらの部品や材料で圧倒的な優位を獲得しただけでなく、半導体製造機、ロボット、工作機械など様々の生産技術では他国の追随を許さないレベルを誇ることが出来た。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が流行語となり、「欧米には学ぶことがなくなった」と豪語する一流企業の経営者が現れた。しかし一方では、本格的なダウンサイジングを開始した計算機技術、それと関連した双方向通信ネットワークサービス、これまでにない広がりを見せつつあった生物医療技術、高度化しつつある研究開発用の科学機器、データベースや経営システムのソフトウェアなどの分野では、日本は技術の方向性を定められず、シェアの低迷が続いていたのが実情であった。
 1980 年代に日本が制圧した分野は、どちらかと言えば、既に市場が確立し技術の方向性もある程度固まっていた従来型の分野である。一方、苦戦を強いられた分野は、市場の形成(あるいは市場の価値観の形成)が未熟であるためにその動向が掴みがたく、技術開発の方向性に様々の曲折が予想される不確かさの大きな未来型の分野であった。今から考えれば、当時日本は従来型の成熟しつつある技術で優位に立ったが、その背後で進行しつつあった技術の地殻変動を捉えることが出来ず、その結果、変化しつつある社会の動向に対応して変化するダイナミズムを失っていたと言えよう。残念ながら、30 年後の現在、それなりの努力は行なわれたが状況は改善せず、ミスマッチはむしろ顕在化しつつある。日本が主導する新しい産業分野は現れる兆候がない。
 新しい分野で日本の製品のシェアが伸びないだけでなく、最近ではこれまで日本の独壇場と言われてきた分野で日本製品の国際シェアが急減している。例えば、家電製品である。白物家電といわれる日本のお家芸製品については次のようなデータがある。
 半導体製造機械も絶対の強さを誇っていた分野であるが、シェアが劇的に低下している。
 既にシェアをほぼ喪失しつつある分野も少なくない。例えば、DRAM メモリ、液晶パネル、DVD プレーヤなどである。その結果、2008 年にはこれまで28年間続いてきた日本の貿易収支は赤字に転化している。2009 年には再び黒字に転じたが、その幅はこれまでの半分に減っている。製造業で世界を席巻していた 25 年前に比べると、見る影もないという表現もあながち大げさではない状況となっている。このような状況をもたらした背 景を冷静に分析しその原因を探ることは、日本の科学技術の進むべき方向を見定め、産業 競争力を回復させるためにはどうしても必要なステップであり、事実これまでに多くの論 評がなされている。
 この状況を克服するために何をなすべきかについては、政策提言「システム科学技術の振興策(仮題)」について詳しく述べる予定であるが、本報告でも 4 章にその基本的な考え方を述べる。
 本報告は、CRDS システム科学ユニットが主催している「システム科学技術推進委員会」の 6 回にわたる討論結果2に、ユニットの調査活動を加えた中間的な報告書である。具体的な推進策を提言する前提となる、システム科学技術の歴史、現代技術における位置づけ、そして日本の現状を明確化することを目的としている。