海外調査報告書
  • 科学技術イノベーション政策
  • 海外動向

「科学技術イノベーション政策の科学」に関連する海外教育研究機関

エグゼクティブサマリー

 世界における主要各国で、エビデンス(科学的根拠)に基づく科学技術イノベーション政策の形成を目指して、そのための科学的基盤を構築する「科学技術イノベーション政策の科学」を推進し、政策形成プロセスの改善を求めていくことに対する期待が寄せられている。我が国においても、科学技術イノベーション政策に関して、エビデンスに基づいた合理的なプロセスによる政策形成を実現するため、文部科学省は「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」を2011年度より開始することとなっている。その中で、研究開発プログラムやデータ基盤整備とともに、長期的視点から重視されているのが、「科学技術イノベーション政策の科学」推進の担い手となる研究者、及びエビデンスに基づく政策形成を推進する政策担当者の人材育成・教育と、そのための教育研究拠点の整備である。これは、我が国において、科学技術イノベーション政策の研究者や、関係する専門性を有した政策担当者の人材の層が薄く、これら人材のキャリアパスも充分確立されていないという現状を反映している。
 関連する教育研究拠点について諸外国の状況をみると、欧州では、新旧あわせて数多くの関連教育研究機関が存在し、欧州域内全体や米国等国をまたいだネットワーク構築の取組が進んでいる。また、米国では、科学技術イノベーション政策に関連する大学院プログラムを持つ大学は約25校あり、それぞれ多様な特色をもつ大学院コースが存在する。さらに、アジアにおいても、中国、シンガポール等で関連する取組が積極的に進められている。
 翻って、我が国では、科学技術政策やイノベーション政策を対象とする研究者が、経済学、経営学、工学、教育学、公共政策学等の様々な教育研究部門に散在しており、現状では、「科学技術イノベーション政策の科学」に関する人材育成を主眼にした教育研究機関が形成されているとは言い難い。そのため、我が国でも、新たな政策形成と政策の科学の担い手となる人材を育成すると同時に、それら人材のコミュニティやネットワークが形成され、組織や国境を越えて活躍が可能となる環境を整備することが必要となっている。
 今後、我が国で教育研究機関を整備するためには、先行する欧米を中心とした海外での取組を十分参考にしながら、我が国の現状を踏まえて、制度設計を慎重に行っていく必要がある。このため、欧米における科学技術イノベーション政策の科学と関連する大学院課程を有する教育研究機関を中心として、全16大学の19組織・部門(英国3、オランダ3、米国13)を訪問し、設立経緯・ミッション、教員・スタッフの情報、提供学位・プログラム等やカリキュラム、学生の情報・卒業生の進路、ネットワーク構築・連携、政策形成とのつながり等の観点を中心に、調査を行なった。さらに、調査からの考察として、我が国で育成すべき人材像、備えるべき能力、そして必要な教育内容について概念の整理を行なった。本報告書では、第I部で調査概要を、そして第II部で訪問大学ごとの調査結果について記している。