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自立シミュレーションの連携システム構築 ~地球システムモデリング研究での実践~

エグゼクティブサマリー

自立したシミュレーションを連携して活用するためのコミュニティと技術基盤を構築する。ここで「自立したシミュレーション」とは、ある特定の目的に対して単独で機能するよう構築され、それ自身で機能が完結しているシミュレーションをいう。自立したシミュレーションは個別には高い価値を持つが、そのままでは他のシミュレーションと連携させたより高度なシミュレーション(連携シミュレーション)を行うことができない。連携シミュレーションのための技術基盤を構築し、個別分野に蓄積された高度な知見の統合的な活用に道を切り拓く。

近年、地球温暖化、環境汚染、資源枯渇、生物多様性の減少等、地球環境問題が深刻化している。国際交渉の場でも、気候変動緩和のための具体的な目標が掲げられ、それを達成するための取り組みが急務となっている。また、気候変動に適応した社会システムの創出が喫緊の課題として強く認識されている。こうした社会ニーズに応えるための政策決定は、今後大きな影響を持つようになる。
政策決定の合理性や説得性を向上させるには、将来の予測や対策の設計を的確に行う必要がある。予測や設計の対象は様々な要素が複雑に関連した“地球システム”であるため、シミュレーションによる技術的支援が強く求められる。しかし、大気循環、海洋循環、エアロゾル拡散、生態システム、交通システム、経済システム等、個別の分野で蓄積される知見が日進月歩である一方で、これらを連携して活用するシステム作りは非常に遅れている。

研究者の知的探究の中で、他分野との整合性を確保するインセンティブを持たせることは困難である。これが知的生産の成果たるシミュレーションプログラムを連携して活用する困難性の原因である。この困難性を克服するため、個別分野における真理探究とは別のインセンティブを持った新しいコミュニティを形成し、連携のためのシステム構築にあたる。コミュニティの形成は「気候変動に適応した新たな社会の創出」という課題を掲げて推進する。気候変動に適応しなければならないという社会の強い機運を駆動力として、行政と研究者が一体となってこの困難性を克服する。

気候学、海洋学、地球化学、生態学、社会心理学、交通工学、経済学等、独自のモデルに基づくシミュレーションプログラムを構築して研究を推進している学術分野と、統計数理科学、計算機科学等、連携シミュレーションを実行するために必要となる科学的知見を提供しうる学術分野から、連携シミュレーションに興味を持つ研究者を募り、必要な連携シミュレーションの全体像と、自立したシミュレーションを相互連携させるための技術仕様をこのコミュニティで検討し、定義し、合意する。
合意した技術仕様に基づき、連携シミュレーションが実行可能な技術プラットフォームを構築する。具体的には、情報通信回線を介して複数のシミュレーションプログラム及びデータベースを接続し、それらを制御するプログラムを実装する。また、この技術プラットフォーム上で実施する様々な連携シミュレーションを通じて、大規模シミュレーションプログラムを最適化する統計数理科学的な技術の充実に努める。前記コミュニティのメンバーはこの技術基盤が活用できる独自のシミュレーションプログラムやデータベースを各分野で構築し、他者との連携による新しい知見の獲得に挑戦する。このための試行錯誤を通じて、技術基盤は継続的に発展していく。このような方法は、地球システムモデリング分野以外(マーケティングや金融等)にも適用が可能である。