国際比較調査
  • バイオ・ライフ・ヘルスケア

特定課題ベンチマーク報告書 「合成生物学」

エグゼクティブサマリー

 近年の分子生物学の進展により,生体分子情報や分子間のネットワークの知見が飛躍的に増加した。一方、コンピューティング技術の進展により、データベースの整備も目覚ましい。さらに、核酸やタンパク質合成の効率化が進んだ結果,欧米主導の形で生体分子システムの人工設計や,モデル細胞における生体分子ネットワークの構築の研究が推進されつつある。米国は工学的アプローチを志向しており、物質生産等、出口を意識した研究を深めている。MITに国際的な研究コミュニティを中心に、学生チームの国際コンペティションを2005年より毎年開催し裾野を広げる一方、戦略的なファンディングが複数立ち上がっており、DNA合成技術を中心とした。ベンチャーキャピタルによる投資も積極的に行われている。欧州は、米国の工学的な流れを追い、グラントとしてもFP6ならびにFP7によって構成生物学が積極的にサポートされはじめた。共同研究チーム構成にコミュニティ部門が設置されるなど、戦略的なネットワーキングを進めている。上記、欧米の動向に対し、日本は基礎研究活動が盛んである。基礎研究者を中心に、「細胞を創る」研究会が2007年より発足し、異分野間の交流を深めている。ファンディングについては、欧米が戦略的なファンディングを複数立ち上げているのに対して、日本では、個別研究を中心に再構成研究の流れを作り出しつつあるものの、戦略的なファンディングが存在していない。次ページ以降の本報告書内容でも随所に触れているように、欧米と日本では合成生物学へのスタンスが多少異なる。我々ファンディング機関は、両者の強みを相補する形で、国の方針の元、明確な目標設定を行うと共に、長期的投資戦略に基づいた誘導を行う必要がある。