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新興・融合分野研究検討報告書 ~社会の課題解決と科学技術のフロンティア拡大を目指して~

エグゼクティブサマリー

 現代社会が直面する多くの課題は、科学技術が関与するものに限っても、既存の個別分野の範囲内では、解決が困難であることが、国際的にも認識されている。豊かな地球環境と平和で安全な社会を維持するために、科学技術によって貢献するとともに、科学技術のフロンティアを拡大し、我が国の国際競争力を強化するために、課題解決に向けた「学の融合」が必要である。
 新興・融合分野の重要性は、以前から指摘されてはいるものの、外形的な理念のみで具体性に欠ける、社会的ニーズが不明確、体系的整理が不十分、既存分野の研究者や政策担当者の関心が薄い、等の理由で積極的な推進が図られていない。
 そこで、今回は、社会の重要課題を解決するために必要な新興・融合分野を具体的に抽出し、その推進方策を提示することを目的とした検討を行った。その手法として、まず、現在社会が直面する複雑な課題(難問)を幾つか例示し、それらの解決のために、どのような科学技術分野が必要かをゼロベースで考え、その中から既存の個別分野では対応しきれないものを抽出するというアプローチを取った。
 その結果、幾つかの新興・融合分野を抽出した。これらは、以下の二つのカテゴリに分類される。
 1.複数の課題に共通の基盤的・ツール的な新興・融合分野2.課題に対応したソリューション提供型の新興・融合分野
第1のカテゴリに属する科学技術分野の例として、
 ・巨大データの取り扱い  ・人間の心理・行動の理解  ・進化・変異・劣化への対応
 ・システムの複雑性克服  ・ユーザー視点のサービス  ・リスクガバナンス
また、第2のカテゴリに属する科学技術分野の例として、
 ・医学の知見に基づく生体社会などの制御・予測
 ・環境先端材料科学/超長寿命材料工学
 ・形と構造の変動の科学
 ・地球環境と社会との関連科学  などが抽出された。
 このような課題解決型の新興・融合分野の研究を推進するため、大学においては、科学技術と人間、社会の関係を見直し、伝統的な学問領域や既存組織の枠組みを越えた「学の融合」を実現する研究システムや大学システムへ向けて果断な改革を行うとともに、課題解決型への若手研究者のインセンティブを強化する仕組みやトップマネージメントを構築することが必要である。産業界においては、課題解決型の融合分野の研究成果の還元の一つの形態が産業創成や産業力強化であることを十分に認識した投資が必要である。社会においては、従来の自律型研究に加えて、課題解決型研究の重要性を明確に表明し、正当な評価を与える必要がある。ファンディング機関においては、社会の重要課題を解決するために必要な融合分野を育成し、振興するために、果敢に研究支援の実施に取り組むべきである。行政においては、これまでの分野別の自律型研究と共に、課題解決型の融合分野の研究と並行して推進する体制へ科学技術行政を転換するべきである。