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医療機器開発におけるICR の推進
エグゼクティブサマリー
私たちの身の回りにある医療機器は様々な形で病気の診断、治療や健康、QOLを高めるために役立っている。例えば、胃カメラの導入は胃癌の早期診断を実現し、胃癌による死亡率を1970 年代に比べてほぼ半減させた。最近では、ポジトロン断層法(PET)が導入され、アルツハイマー病やガンなどの難治性の病気の早期診断に期待がよせられている。
わが国は電子機器、半導体、材料などの技術力は高く、新しい医療機器のコアとなる有望な技術も多くあるにもかかわらず、医療機器の開発が遅れているのが現状である。医療機器の輸出入を見ると5000億円を越える輸入超過となっており、また人体へのリスクが高い治療機器は国内でほとんど開発されていない。万一の事故を恐れる開発姿勢にも問題があるが、最も大きな原因は、使用しながら改良を施すことが多い医療機器開発の臨床研究を迅速的に進めるためのシステムが整備されていないことにある。
このような現状を打破するためには、研究開発、産業、規制に見られる様々な問題を解決しながら、革新的な医療機器開発を迅速的に行うための施策が必要である。そのため、臨床試験の始めにゴールを見通し、各研究開発段階を統合的かつ迅速に進める「統合的迅速臨床研究(ICR:Integrative Celerity Research)」の概念を医療機器開発にも適用し、医療機器開発における現状と問題を俯瞰し、医療機器開発において生じている問題を解決する有効な施策として次の二つを提言する。
1. 新規医療機器申請制度(日本版IDE)の導入:医療機器開発の窓口を一本化し、研究開発段階初期から開発側に審査側が助言、支援を与えることができる制度を導入する。併せて、規制を開発段階に応じて柔軟化し、コストの軽減を図るメカニズムも考慮する。
2. 司令塔の機能を持つ研究開発プラットフォームの構築:革新的な医療機器開発のために、シーズの段階から実用化までの一貫した支援ができるシステムを構築する。そのため、司令塔となる組織をつくり、文部科学省、経済産業省、厚生労働省がそれぞれの立場で切れ目なく支援できるような制度とする。特にハイリスクの機器開発では、大学、ベンチャー、大企業などのセクターの役割を明確にし、効率的な医療機器開発ができるようにする。
以上の提案を実現することによって、これまで不明瞭だった審査基準が明確にされつつ、官民一体となった医療機器開発のプロセスが円滑化され、日本発の高度なものづくり技術・ライフサイエンスの臨床応用が劇的に促進されると期待される。一方で、他分野の技術・企業が参入できるようになり、医療機器産業そのものが活性化し、医療機器産業の魅力を高めることができる。その結果、輸入に頼っているペースメーカーや心臓冠動脈血管カテーテルなどが国産で使用可能になり、現在では達成できていない国産品による日本人の健康医療の保障が可能になることが期待される。