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社会インフラの劣化診断・寿命管理技術

エグゼクティブサマリー

高度経済成長期に形成した社会インフラが高経年化しつつある。供用年数の長い社会インフラは予期しないときに損傷、破壊が起こる可能性が高く、国民の人命や財産に多大な被害をもたらす恐れがある。また、事故に至らずとも、生活の利便性を失うことが多々ある。
社会インフラを長期間安全に使用するためには、劣化の種類、場所、程度を正確に計測、診断し、損傷の発生する時期を精度よく予測することが重要であり、従来の対象別の経験的な検査・診断技術に代わり、劣化現象・要因解明に遡った技術開発が必要となる。
この戦略プログラムが提唱する「社会インフラの劣化診断・寿命管理技術」とは、道路・橋・鉄道・電気・水道など国民の生活を支えるライフラインや、大型施設や産業プラントなど社会活動に大きな影響を持つと共に、万一事故が起こると市民に重大な被害が生じる施設・設備について、経年劣化の計測、診断により余寿命を評価して保守・補強・更新計画に反映させるとともに、損傷・破壊の兆候を常時監視により早期に検知して安全を確保する技術である。
この技術は、施設・設備の劣化・損傷を非破壊で計測・診断するためのセンサとデータ処理に関する技術、劣化現象モデル、破損限界評価モデルおよびそれらを組み合わせ稼動時のストレスや地震等の外力を考慮して余寿命を予測する技術、損傷・破壊の兆候を常時監視する技術、センサの配置最適化技術、データ通信・処理技術からなる。
劣化現象モデルや、劣化の結果としてその施設・設備が損傷・破壊するかどうかを判定する破壊限界評価モデルなどの要素となる技術の一部は個別に開発されてきているが、全体として信頼度の高い寿命予測や損傷・破壊の検出のためには不十分な要素技術の開発・高度化を、フィールドで得られるデータも生かしつつひとつのシステムとして進める必要がある。また、多くの社会インフラは維持・管理責任が国や地方自治体、独立行政法人など公共的性格を持つ組織にあるが、維持・管理の技術的業務は民間に委託している場合が多い。特に計測原理や劣化のモデル化など基礎的研究を多く含み、基盤的、共通的な性格が強い技術を民間会社が個別に推進することは困難であり、社会インフラの維持・管理責任を全うするという観点からも国が主導して行うことが合理的である。
本プロポーザルを国が主導して実行することにより、早期に損傷・破壊の兆候を検出して事故を回避することや、精度良く余寿命を診断して寿命に達したもののみを合理的に補修、更新することが可能となり、安全性の向上と社会の経済的負担の軽減に寄与することができる。また、劣化の計測、診断といった要素技術、劣化メカニズムのモデル化が進展し、直接測定が困難な環境下における劣化現象も予測可能となる。