初代創発PO研究体制
創発研究者(2020年度採択)
た行
(塩見(美)パネル)
ゲノム複製におけるDNAポリメラーゼ間の協調的機能
細胞内には、正確性・反応の効率が異なるDNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)が多く存在します。本研究はDNAポリメラーゼの間での協調的機能を解明し、大きなゲノムを複製するために必要な正確性と柔軟性のバランスを維持する機構を明らかにします。その成果をもとに、様々な疾患の原因となる突然変異が蓄積する仕組みを解明し、また、新たな遺伝子キャリアを構築するため、細胞内の複製を制御する技術基盤を確立します。
(塩見(美)パネル)※2021年12月卒業
哺乳類胚におけるプログラムされた発生休止の解明
生命活動の休止現象は、生物種や大きさを問わず幅広く見られる現象です。胎生の哺乳類は着床前期において、母体の環境や成熟度に応じて細胞分化と周期の停止を伴う「発生休止」を起こすことで、安定的な妊娠を可能にしています。しかし、そのメカニズムのほとんどは未解明です。本研究では、マウス胚における発生休止の分子機構を明らかにし、将来の多様な活動休止現象の本質的理解と応用研究を創出するイノベーションに繋げます。
(阿部パネル)
蛋白質中D-アミノ酸を基盤とした未知生命科学研究領域の開拓
アミノ酸にはL型とD型の二種類ありますが、蛋白質を構成するのはL型アミノ酸のみという常識がありました。しかし最近、蛋白質中のL型アミノ酸がD型アミノ酸へと変化する現象が発見されています。これまでの生命科学では説明できない病気の原因や、生命現象の謎を解き明かす答えが蛋白質中D型アミノ酸の役割にあると考え、私は自ら開発したD型アミノ酸分析法を駆使し、蛋白質中D型アミノ酸の役割を解明する研究を進めます。
(合田パネル)
脳における運動系の基準座標の神経機構の解明
「ヒトは重力の奴隷である」。生後地球上で生活したため、耳にある前庭器官が重力を感知し、物体認識や体の姿勢調節機構が、重力軸に対して脳内に学習され形成されています。このため脳は、5つの異なる随意的、反射的眼球運動システムを駆使して常に眼球を鉛直に保ち、視覚情報を重力方向と一致させて取り込んでいます。霊長類で5つの眼球運動系の脳内神経回路を解明し、それらを統一している運動制御の原理を明らかにします。
(北川パネル)
化学・ナノ構造カップリングの解明に資する対話型分析技術の創成
バイオロジーの発展に新しい計測・イメージング技術の開発が不可ですが、オルガネラレベルや、組織深部の分析・操作技術が欠けています。そこで、これまで培ってきたナノピペットによる分子レベルの刺激技術や、生細胞イメージングのノウハウを活用し、細胞と対話するようにセンシングと刺激を印加できる新しい技術の走査型プローブ顕微鏡技術を開発し、化学・ナノ構造カップリングによる新たなバイオロジーの世界を開拓します。
(水島パネル)
幼少期の社会的環境が成熟後の生きやすさに及ぼす影響
社会性やレジリエンス(困難や逆境を乗り越える力=回復力)の個人差に起因した「生きづらさ」は、長期的な心身の健康問題の原因になり得ます。本研究では幼少期の社会的環境が社会性とレジリエンスの発達に与える影響について、脳内メカニズムを明らかにします。「生きづらさ」を神経科学的に解明し、社会性障害やストレス性疾患の治療だけでなく、疾患リスク予測、「生きやすさ」の獲得推進による一次予防への応用を目指します。
(天谷パネル)
炎症による造血幹細胞の機能制御とその変容
生涯を通じた血液産生は骨髄に局在する血液幹細胞によって維持されています。感染や炎症などにより免疫が影響を受ける際には、免疫細胞だけでなく血液幹細胞も活性化して生体応答に必要な細胞を優位に産生することが分かりつつあります。我々はその活性化シグナルの中でも自然免疫シグナルに注目して、血液幹細胞の機能制御、その制御が不安定になり機能不全から血液ガンへと移行していく機能変化を明らかにしていきます。
(合田パネル)
予測的運動制御に関わる皮質-皮質下神経ネットワークの解明とその操作
近年脳科学の発展によって、身体を介さずに脳活動から直接外部環境とインタラクションする技術が開発されています。しかし身体が物理的制約から解放されたとき私たちの認知や行動の仕方はどのように変わってしまうのでしょうか?本研究では動物が物理的制約のない「新しい身体」を獲得した際に中枢神経系がどのように適応するのかを人工的神経回路の構築、大規模神経活動記録、モデルシミュレーションを用いて明らかにします。
(井村パネル)
生体内埋め込み多極神経刺激デバイスによる機能的運動の再建
本研究では、体内に埋め込み長期間に渡り神経への刺激が可能な、多チャンネル埋込型デバイスを開発します。神経への電気刺激によって筋肉の収縮を生成し、手足の複雑な運動制御を可能とすることを目指します。将来的には、手足の運動機能の回復だけでなく、呼吸や内分泌系など神経によって調節される重要な臓器の機能障害を、薬剤だけではなくデバイスからの電気刺激によって選択的に調整できる新たな治療法への発展を目指します。
(川村パネル)
精度保証付きニューラルネットワーク数値計算理論の確立
ニューラルネットワークは世界的に利用が進んでいる機械学習のベースとなる構造で、関数近似手法としても注目されています。本研究では反応拡散モデルと呼ばれる微分方程式を主な対象として、その効率的な精度保証法の開発にニューラルネットワークをベースとした手法で挑みます。これを通じてLearn and Verifyという新スタンダードを創出し、精度保証付きニューラルネットワーク数値計算としての普及を目指します。
(天谷パネル)
微量の新規マクロファージに基づく全身虚血性疾患治療の構築
組織に十分な血液が供給されなくなると虚血に至り、組織は機能を失い壊死します。しかし現在は微小血管を再生させる治療法がありません。本研究は微小血管再生を担う「薬」の開発を行い、全身の虚血性疾患の治療を可能とします。具体的には、私たちが発見した血液中に存在する新規の細胞であるReMa細胞の細胞学的特性を解明し、生体内外でReMaを増やし、「組織を甦らせる新治療薬」として幅広く医療分野に貢献します。
(田中パネル)
大脳基底核深部電極を使用したBrain Machine Interface開発
本研究ではパーキンソン病患者さんに留置された深部電極から、視床下核の神経活動を運動、認知、情動データと共に記録するPlatformを作成します。視床下核は大脳皮質-基底核ループにおいて運動、認知、情動情報のHubとして働き、深部電極からは多様なデータを記録することができます。得られたデータベースは人工知能等で解析し、運動、認知、情動Brain Machine Interface実現を目指します。
(天谷パネル)
炎症記憶による腸の組織再生とがん化機構の解明
人間は個体としての記憶のみならず、細胞レベルでも外界からの刺激を記憶することができます。我々は腸が炎症刺激を記憶できる事を世界で初めて発見しました。このような炎症記憶は主にゲノムに加えられた修飾であるエピゲノムの変化を介して起こると考えられています。腸の炎症記憶のメカニズムの解明を通して、炎症性腸疾患と大腸がんに関して新たな切り口での病態解明と治療法の開発を行なっていきたいと考えています。
(水島パネル)
非天然核酸による損傷DNAシーケンシング技術の創成
これまでの技術では成し得ない遺伝子のキズである損傷核酸を含むDNAを直接正確に読み取るため、「損傷核酸を認識可能な人工核酸の創成」と「リン酸修飾体を用いたDNAシーケンシング技術」の開発に挑戦します。具体的には、損傷核酸やDNA合成酵素の性質を軸に化学修飾を施した人工核酸、DNA合成の材料となるトリリン酸体に化学修飾を施した人工核酸の化学合成を行い、ポリメラーゼ伸長反応への効果を詳細に検証します。
(田中パネル)
テーラーメイド時間健康科学の確立
体内時計や睡眠の乱れは生活習慣病などの健康被害に直結します。規則正しい生活は体内時計を維持するために重要ですが、どうしても不規則な生活になってしまうのが現代社会です。本研究では、動物試験、シミュレーション、ヒトビッグデータ解析を駆使することで、実生活における不規則な生活を科学的に理解し、これまでに無いより実践的な時間健康科学の確立を目指します。
(水島パネル)※卒業(研究開始前)
チャネルシナプス研究の拡張と深化、そして応用へ
私はこれまでに、味覚を担うとともに細胞間情報連絡の概念を覆す「チャネルシナプス」の存在を発⾒しました。本研究では、チャネルシナプスの全⾝での多様な医学・⽣理学的役割やその動作・形成の分⼦機構を解明することで⽣命科学の新概念を打ち⽴てます。さらに得られる学術的知⾒とその制御技術開発により、肥満や⾼⾎圧などの⽣活習慣病の予防や治療を通じて健康⻑寿社会に資する破壊的イノベーションのシーズを創出します。
(川村パネル)
テンソルネットワーク法と量子シミュレータで切り拓く新奇量子多体現象
量子力学に従う構成要素が多数集まり相互作用する系は量子多体系と呼ばれます。量子多体系においては系の大きさに対して数値計算のコストが指数関数的に増大してしまうことから、その理論解析は一般的に困難です。本研究では、最先端の数値計算手法とアナログ量子シミュレータを組み合わせて利用することでこの困難を回避します。それによって、未解決の難問を解決し、新奇な量子多体現象を予言します。
(塩見(美)パネル)
RNA修飾編集技術の創発とその治療への応用
本研究は、RNA分子に施される化学修飾(RNA修飾)を編集するという、ゲノム編集の次の技術を開発します。具体的には、人工的なガイドRNAと、細胞内に存在するRNA修飾マシナリーの活用により、狙ったRNAの狙った場所にRNA修飾を導入可能とすることを目指します。本研究が成功すれば、トランスファーRNA修飾の欠損による8つの病気や、様々な遺伝子の終止変異による病気の治療に向けた基盤技術となります。
(合田パネル)
植物自家不和合性の進化動態解明と制御へ向けた基盤研究
植物には、自己の花粉を選択的に排除し、非自己の花粉のみを受け入れる自家不和合性と呼ばれる仕組みが知られていますが、その野生集団での実態や進化動態は依然明らかではありません。本研究は、ゲノム配列解析、数理モデリング、生化学的解析等の融合アプローチから、自家不和合性システムの野外集団での実態把握および進化予測を行うことを通し、自家不和合性のデザイン・実装による植物の交配の自在な制御を目指します。
(合田パネル)
ディープラーニングを用いたマウス夢見証明への挑戦
なぜ、どのように夢をみるのか?脳科学者にとって未解決の難問です。なぜなら、遺伝子操作等による夢見神経回路への介入が可能なマウスでは意思疎通が出来ず、夢を見たのかどうか分からないからです。そこで本研究では、ディープラーニングを用いることで、マウスにおける夢見証明に果敢に挑戦します。続いて、夢見の神経メカニズム、夢見の生理的役割を解明することを目的に掲げ、研究を展開します。
(阿部パネル)
細胞融合を用いた新規リプログラミング技術の創出
本研究では多能性幹細胞をまるごと融合することで、任意のターゲット細胞を短時間に、高効率で、かつ遺伝情報を損なうことなく多能性幹細胞へ誘導する(リプログラミング)技術を創出します。私たちはこれまでに融合細胞の単離・追跡・評価を1細胞レベルで行うことを可能にし、融合後24時間以内にリプログラミングが開始することを見出しています。個々の融合細胞をプロファイル化し、リプログラミング条件の最適化を行います。
(北川パネル)
極希薄濃度場におけるイオン種の識別
本研究では、プロトンをはじめとした液中のあらゆるイオンについて、極低濃度場を測定する手法の確立を目指します。従来、イオン濃度の測定にはイオン電極法等が知られますが、各種イオン選択性物質に依存するため、対象が特定のイオン種に限られています。本研究では、少数のイオンを捉えるためのナノスケールの流路構造を製作し、それを用いた物理的な測定原理を見出すことで、材料に依存しないイオン測定手法の開発を行います。
(合田パネル)
生態系レベルの生物機能最適化を実現する越境科学フロンティア
ゲノム科学・野外/理論生態学・ネットワーク科学・微生物学を融合し、生態系内に存在する全生物群間の関係性を俯瞰する「地図」(種間ネットワーク図)を世界に先駆けて作成します。その上で、中核的な役割を担う種のセット(「コア生物叢」)を設計します。「1種の生物ゲノムをいかに改良しても到底得られない次元の機能」を生態系という高次レベルで実現し、食糧・環境問題に新しい解決策を提示する科学領域を創成します。
(水島パネル)
抗腫瘍免疫応答に重要な真のネオ抗原の同定と発がんとの関係解明
がん免疫療法の効果は未だ満足のいくものではないです。がん免疫では遺伝子変異由来の「ネオ抗原」が注目されていますが、従来の「ネオ抗原」だけでは説明できない現象も多く、本研究では今まで注目されていない領域の遺伝子や免疫細胞にも焦点を当て、「真のネオ抗原」を同定して治療応用を目指します。またがんになる手前の病変でも「真のネオ抗原」含めどのような免疫状態になっているか解明し、がんの予防方法などに応用します。
(井村パネル)
周期的電子風力を利用した原子再配列法の開拓
本研究は、高周波電流がなす革新的な電子風力の「揺さぶり」を利用し、薄膜内原子の再配列を実現し、熱処理に依らない薄膜の原子配列・結晶構造の制御を目指します。これにより、これまで原子配列・結晶構造の制御が熱処理や結晶成長のみによって実現されてきた現状に破壊的イノベーションを与え、世界で初めて熱処理に依らない電子風力由来の新たな原子再配列現象の学理創出を実現します。
(伊丹/福島パネル)
バイオミメティック電極による外場誘導型エコシステムの創成
生体模倣型のハニカム電極上に有用微生物を生きたまま高密度・大面積で外場(光などの電磁場)により集積する技術を開発・駆使し、人工的に創出した高密度微生物共生系での代謝機構の解明を目指します。この取組により、有機物-電気エネルギー変換微生物エコシステムのプラットフォーム構築、および疑似腸内フローラ構築による免疫強化など、エネルギー環境問題や人類の健康長寿につながる基礎原理を解明します。
(吉田パネル)
水熱電解法による炭素・熱循環の新スキーム
本研究では、高温高圧水の電気化学を新たな学術分野として開拓することで、従来の新電極材料開発による効率改善のパラダイムから脱却し、温度・圧力操作による電気化学的CO2還元プロセスの高効率化を実現します。この学理を礎に、工場の未利用低温廃熱を活用し、再生可能エネルギー(太陽電池電力)で排出CO2を高効率に還元・再資源化する、新たな炭素・熱循環を生み出し、炭素完全循環社会への変革に貢献します。
(北川パネル)※2024年3月卒業
半導体構造相転移材料の創成
本研究は、これまで半導体ナノ構造の結晶成長で偶発的に生じる半導体準安定結晶の構造相転移現象を人工的に制御し、自然には存在しないウルツ鉱型結晶のIII-V族化合物半導体材料の結晶成長技術の確立を目的とします。これにより、従来の半導体材料にはない新しい物性と学理を見出し、これらの知見を活かした半導体デバイス分野の更なるパラダイムシフトへ繋がる科学技術の創成を目指します。