川村パネル

創発PO・創発アドバイザー一覧

創発PO:川村 光(大阪大学 名誉教授)

【専門分野】物性科学

東京大学にて博士号(理学)取得後、大阪大学教養部、京都工芸繊維大学工芸学部を経て、1999年より大阪大学理学研究科教授を務める。その後、公益財団法人豊田理化学研究所フェローを経て、現在、神戸大学分子フォトサイエンス研究センター客員教授、大阪大学名誉教授・招聘教授(サイバーメディアセンター)。その間、日本学術振興会・学術システム研究センター主任研究員(数物系)や日本物理学会の理事、副会長、会長を歴任。2017年より日本学術会議会員。
専門は、理論物性物理学、統計物理学で、特に、様々な相を含む磁性体の相転移・臨界現象について、競合(フラストレーション)や乱れ(ランダムネス)について世界的にも先駆的な理論を導出した。また、統計物理モデルを、地震現象なども含む協力現象に展開するなど、幅広い分野に亘る研究を推進。

創発アドバイザー(五十音順)

有馬 孝尚
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授
磯 暁
高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所 教授
井田 茂
東京工業大学 地球生命研究所 教授
小原 一成
東京大学 地震研究所 教授
金子 昌信
九州大学 数理学研究院 教授
國府 寛司
京都大学 大学院理学研究科 教授
佐藤 薫
東京大学 大学院理学系研究科 教授
田島 節子
大阪大学 名誉教授
中野 貴志
大阪大学 核物理研究センター センター長
長谷川 剛
早稲田大学 理工学術院 教授
肥山 詠美子
東北大学 大学院理学研究科 教授
吉田 善章
核融合科学研究所 所長

創発研究者一覧

2022年度採択

蘆田 祐人

(川村パネル)

量子多体物理と量子光学の融合で探る強結合開放系の物理
従来の物性/統計物理学は、熱平衡系を記述する上で大きな成功を収めてきました。一方で、外界との相互作用が顕著な開放系の理解は未だ発展途上です。近年、人工量子系や固体物質などで開放系の強結合領域が多く実現しています。本研究では、量子多体物理と量子光学の融合により、強結合開放系の基礎理論を構築します。特に量子的な光による物性制御や、量子情報デバイスのデコヒーレンス制御に向けた道筋を示します。

生田 力三

(川村パネル)

非線形量子光学に基づく量子ネットワーク
量子情報ネットワークはこれまでにない様々な応用を可能にします。実現のためには、通常、光量子系と物質量子系がもつ互いに相補的な性質を使いこなす必要があります。本研究では、非線形量子光学を駆使することで従来の光にはなかった物質的な機能を有する光量子系を実現し、従来の意味での「光」と「物質」の双方の役割を果たす光量子系を用いて高効率な量子ネットワークを確立することを目指します。

池田 暁彦

(川村パネル)

新世代量子ビームによる超100テスラ量子物性の解明
本研究では私が独自展開するポータブル100テスラ発生装置PINKを先端量子ビームと組み合わせることで、100テスラ超強磁場におけるミクロ物性計測をはじめて実現します。この技術を利用し、超強磁場における物質の非摂動論的巨大応答を探索・解明します。これまで未開の地であった超強磁場物性科学を開墾し、新規な物質科学を創出するフィールドに育てます。

井元 佑介

(川村パネル)※研究開始の猶予制度を利用中

1細胞ダイナミクスの多層分解による細胞地図の構築
細胞分化における単一細胞内の遺伝子発現量の変化(1細胞ダイナミクス)を詳細に捉えることができれば、細胞分化の運命を決定する遺伝子の機能が明らかになり、生命の設計原理の解明につながります。本研究では、高次元ダイナミクスの分解理論に基づき、1細胞遺伝子発現データから1細胞ダイナミクスの情報を最大限引き出す解析技術を創出し、出力構造から細胞分化の全体像や経路を記述する細胞地図を構築することを目指します。

浦川 優子

(川村パネル)※研究開始の猶予制度を利用中

次世代重力波実験で解き明かす宇宙創世と対称性の破れ
宇宙創世期であるインフレーション、現在の宇宙に多様な構造をもたらした暗黒物質は、素粒子標準模型の枠内では説明できていません。これらの正体の解明は物理学にパラダイムシフトをもたらすと考えられています。本研究では、初期宇宙模型に新規計算手法を適用することで原始揺らぎに関する理論的予言を与え、LiteBIRD、LISA、SKAなどの次世代の重力波実験による検証を通じてインフレーション、暗黒物質の起源に迫ります。

小川原 亮

(川村パネル)

新たな実験領域を切り開くためのビームリサイクル技術の開発
原子核は身の回りの全ての物質を構成する根源的な要素の一つです。しかし、放射性崩壊をする不安定核についてはまだ未解明な現象が多く存在します。そのため現在世界中で不安定核の実験競争が行われていますが、生成数の少ない稀少な不安定核を用いた実験は非常に困難とされています。そこで私は、従来の1万倍以上の効率で稀少不安定核実験を可能にするビームリサイクルという技術を提案し、本研究ではその原理実証実験を行います。

高麗 正史

(川村パネル)

大気観測の未踏領域 乱流エネルギー散逸率の全大気分布
大気科学の進展と数値モデルの発展は強く結びついており、今後数値モデルの一層の高解像度化が進むと考えられますが、小スケールの乱流的な大気運動を検証する大気観測データは存在していません。本研究では、乱流パラメータの精密推定手法を提案し、全世界で行われているラジオゾンデ観測に基づき、その全地球分布を得ることを目指します。さらに、種々の気象システムのライフサイクルにおける乱流の役割を明らかにします。

品岡 寛

(川村パネル)※研究開始の猶予制度を利用中

2粒子レベルの量子埋め込み理論に基づく新規第一原理計算手法の開発と実証
量子もつれの強い物質の定量的物性予測は、古典、量子コンピュータ単独では不十分です。本研究では、古典と量子双方の「情報圧縮技術」を融合させ、限られたリソースを活用する新しい第一原理計算手法の創出を行います。具体的には、2粒子レベルの埋め込み理論、量子計算を融合した高精度第一原理計算手法を開発することで、将来の新機能探索及び材料解析の加速を狙います。

志村 恭通

(川村パネル)

オールfスピンメタルの0.1 Kを生成する磁気冷凍機の創製
絶対零度に極めて近い0.1ケルビンの温度域は、量子力学的効果が顕在化するため、需要が高まっています。磁気冷凍法は簡単に極低温を生成できる反面、”冷却材の熱伝導が悪く扱いにくい”点と、“連続運転が不可能”という問題があります。これらを解決すべく、すべて f 電子を含む希土類磁性金属で作られた、オール f スピンメタルの磁気冷凍機を開発します。

Dani Keshav

(川村パネル)

Imaging Dark Excitons in Momentum Space
運動量空間における暗い励起子の視覚化

運動量禁制な暗い励起子は異なる運動量を持つ電子と正孔が結びついた複合粒子です。運動量保存則により暗い励起子は光との相互作用を受けず、光を利用する手法では調べることが困難でした。近年の私たちの研究では 画期的な光電子分光技術でこの調べることが難しかった暗い励起子を画像化し、暗い励起子は明るい励起子の数を上回ることを発見しました。本研究では、直接暗い励起子を操作し、光から保護されている状態を利用して今後の量子技術に役立てることを目指します。

塚本 裕介

(川村パネル)

強化学習による超高速数値計算の実現と星惑星形成の新展開
本研究では、強化学習を応用した動的負荷分散アルゴリズムを提案し、それを用いて惑星のゆりかごである原始惑星系円盤の数100万年にわたる形成進化過程、さらにその内部でのダストの成長と(微)惑星の形成過程を第一原理から解明し、「星と惑星の共進化パラダイム」を打ち立てます。さらに、本研究で開発する強化学習を用いた動的負荷分散ミドルウェアの産業/社会シミュレーションへの応用も目指していきます。

永野 中行

(川村パネル)

K3曲面の周期による微分幾何学と整数論の統一的研究
楕円曲線は多くの応用を持つ図形です。例えばフェルマーの最終定理という整数の問題の解決で活躍しました。近年では楕円曲線暗号が現実に応用されています。さて、K3曲面という図形は楕円曲線の高次元版であり、楕円曲線のような豊かな性質が期待できます。本研究ではK3曲面を舞台に、テータ関数という良い性質を持つ関数を介して、微分幾何学と整数論という2つの分野が一体となるような研究成果を得ることを目指します。

服部 香里

(川村パネル)

超伝導検出器アレイが拓く暗黒物質探索
近赤外光子1個程度の微小なエネルギーを精密に捉えることが可能な、超高感度の超伝導検出器を用い、軽い暗黒物質探索を行います。100万eV(電子ボルト)程度の質量を持つ軽い暗黒物質の探索はフロンティア領域であり、その探索に挑みます。そのために、多くの超伝導検出器からの信号を一気に読み出せる技術を研究します。さらに、本研究で開発する読み出し技術を量子計算へ応用することによって、量子ビットの大幅な増大への貢献が期待されます。

樋口 嵩

(川村パネル)

超冷中性子スピン・メーザーによる標準模型を超えた物理の探索
非零の中性子の電気双極子モーメント(EDM)は、時間反転対称性を破る物理量であり、標準模型を超える物理の敏感なプローブです。1980年代から現在に至るまで、中性子EDMの測定は、容器に蓄積された超冷中性子の電磁場中での歳差周波数をラムゼー共鳴法によって測定することで行われてきました。本研究では、現在開発中の新型高強度超冷中性子源を活かした中性子EDM測定装置の実験要素を開発するとともに、スピン歳差位相の直接検出による中性子EDMの新測定手法を提案し、その原理実証を試みます。

Hirschberger Maximilian

(川村パネル)

中心対称な金属におけるメロン・スキルミオン構造の開拓
Pioneering meron and skyrmion textures in centrosymmetric metals

本研究は、新しいタイプの磁気スピン構造の探索と、スピン構造に磁場や電流を印加することによる情報の読み書きをターゲットにしています。磁気らせん構造は位相の自由度を持つ波であり、量子工学において未開拓の制御パラメータと言えます。スピン渦格子における磁気らせん構造間の相対的な位相や、ファンデルワールス磁性体における結晶格子に対するらせん構造の相対的な位相の制御と読み出しを目指します。

前多 裕介

(川村パネル)

幾何学を軸とするアクティブ乱流物理学の開拓
複雑で乱れた流れは物質、生命、気象などの多岐にわたる階層でみられる普遍的現象です。私たちの体を守る上皮細胞も集団となり不規則な乱流構造を示しますが、その乱流発生の本質や、乱流を利活用する生物学的意義には理解が及んでいません。本研究では独自の幾何学的制御法とデータ駆動的手法を融合させ、細胞集団の乱流ダイナミクスに潜む幾何学的な法則を発見し、生体組織の恒常性を解明する新たな物理学領域を開拓します。

松尾 貞茂

(川村パネル)

スピン制御による新奇ジョセフソン超伝導現象の開拓
時間と空間の反転対称性の破れた超伝導体半導体接合では新奇超伝導現象の創発とその制御を目指した研究が近年活発に行われています。その中でも、ジョセフソンダイオード効果やマヨラナモードは将来的な応用可能性も含め注目されています。本研究ではジョセフソン接合のスピン制御および接合間のコヒーレント結合に着目し、これらの新奇超伝導物性の基礎学理の確立と新機能超伝導デバイスの創発および制御を行います。

2021年度採択

石本 健太

(川村パネル)

流れを介した細胞間コミュニケーション力学
細胞スケールの生物は、周囲の流体を通してその環境を認識しています。本研究では、流体方程式に内在する数理的な構造に着目することで、生物の見る世界の「形」と「動き」の数理的な記述法の構築に取り組みます。様々な細胞間流体相互作用に現れる力学的素過程の解明を通して、多種多様な生物の基本行動原理を記述する枠組みとなる細胞間コミュニケーション力学の創出を目指します。

大谷 将士

(川村パネル)

小型ミューオン加速器による革新的イメージング技術の実現
これまで空から降り注ぐ宇宙線ミューオンを用いてピラミッドや原子炉などの透視が行われてきました。しかし、エネルギーも到来方向も分からない宇宙線ミューオンを用いた手法では、透視イメージングの分解能・測定時間ともに限界があります。一方、エネルギー・方向ともに制御可能な人工の加速ミューオンが実現すれば、短時間で高分解能の透過イメージングを得ることができます。本研究では、持ち運び可能な加速ミューオン装置を実現するうえでボトルネックになっているミューオン加速器の小型化に挑戦します。

越智 正之

(川村パネル)

多体波動関数に基づく次世代第一原理計算手法の確立
物質の多種多様な性質を予言する第一原理計算は、現代の物性科学に必要不可欠な理論体系です。本研究では、多体波動関数の自由度を活用することで、従来は記述の難しかった電子相関効果の取り込める、新しい第一原理計算手法を開発します。現在は精度の限界からアプローチできない問題へ、第一原理計算の適用可能性を拡げることで、物性物理学の基礎研究から産業的応用にまで活用できる、革新的な基盤理論の構築を目指します。

風間 慎吾

(川村パネル)

極低放射能技術で解明する宇宙暗黒物質の謎
暗黒物質は、宇宙の物質の80%以上を占めることが判明していますが、その性質は未知のままです。本研究の目的は、この未知の物質、暗黒物質を発見しその正体を解明することにあります。暗黒物質の確かな発見には、偽の暗黒物質信号となる背景事象の徹底的な排除が不可欠であり、本研究ではこの実現に向けて新たな極低放射能技術(石英製低温真空容器、ハイブリッド型光検出器、トリチウム吸着材・定量法)の開発を行い、暗黒物質探索の高感度化を行います。

樫村 博基

(川村パネル)

「地球」流体力学から惑星流体力学へ
大気と海洋の流れは、ともに地球の自転と重力の影響を強く受けています。そのような流れを対象として「地球流体力学」が体系化され発展してきました。ところが従来の「地球流体力学」は、近年新たに発見された金星や火星の大気現象を上手く説明できていません。本研究は、これらの惑星大気現象も含めて統一的に説明する「惑星流体力学」を体系化します。これは、惑星気象予報や気候改変といった将来技術の基盤的学問になります。

川崎 瑛生

(川村パネル)

量子測定を用いた精密分光の高精度化とその応用
近年発展の著しい量子技術、特に原子1つ1つをコントロールする技術や原子同士を相関させる技術を用いて精密分光のさらなる高精度化を目指します。このためにイッテルビウムの未観測の遷移を観測して分析し、量子技術を用いた測定を利用して暗黒物質の候補にもなる未知の粒子の探索、原子時計の高精度化などの応用を目指します。この実験系は中性原子を用いた量子コンピュータの実現にも寄与します。

川﨑 猛史

(川村パネル)

多様な非晶性固体の構造抽出スキームの開発
本研究では、物理学と情報科学の知見を融合し、非晶性固体(広い意味でのガラス)に適用可能な、新たな構造解析スキームを開発します。これにより、多様な非晶性固体における、不均一な粒子運動を支配する特徴構造を抽出し、これらを記述する秩序変数を数学的に同定します。更に、本スキームを発展させ、ガラス転移現象の解明、細胞動態予測、機能材料設計、地震予知の実現を目指し、基礎から応用へと幅広く研究を展開します。

黒田 剛史

(川村パネル)

火星における天気予報の実現と水環境マップの構築
火星には全球規模の砂嵐や二酸化炭素の降雪といった、地球にはない気象現象が存在します。本研究では全球からサブキロメートルまでのスケール間結合モデリングにより火星砂嵐発生の経年変動性に迫り、水循環過程も含めた火星気象プロセスの理解と世界初の火星天気予報実証に挑みます。さらに本研究で得られる知見を土台に、初期の太陽系惑星や未知の惑星の気象・気候予測を可能にする「汎惑星気象・気候学」の確立を目指します。

小森 祥央

(川村パネル)

超伝導マルチフェロイクスによる超省電力メモリの創製
超伝導マルチフェロイクスという新しい分野の開拓により、超省電力磁気メモリの作製を試みます。具体的には、超伝導体/強磁性体界面の電子間相互作用を強誘電体を用いて電圧制御することで、超伝導の凝縮エネルギーを発熱ゼロの電荷輸送だけでなく、スピン角運動量の輸送および強磁性体の磁化制御にも活用し、発熱を伴う電流・磁場の印加が不要な超伝導のポテンシャルを最大限に生かした超伝導磁気メモリを作製します。

佐野 友彦

(川村パネル)

高速計算と精密実験がひもとく幾何学材料の相転移機構の解明
モノの変形を記述する「力学」の礎が築かれて以来、力学は様々な分野に派生しています。ここ20年では構造の不安定性を既知のものとし、逆に新たな力学的機能が発現したとみなすパラダイムシフトを経て、力学は新たな展開を見せています。私は薄い構造物のしなやかさと幾何学に着目し、構造同士が互いに力を及ぼし合うことにより創発される新奇な力応答のメカニズムを精密実験、理論、数値計算を組み合わせて明らかにします。

高橋 陽太郎

(川村パネル)

ナノスピン構造とトポロジーがつくる光スピントロニクス
光と物質の相互作用は自然科学の主要な研究テーマの一つです。近年、ナノメートルサイズのスピン構造やトポロジカルな電子構造から新奇な電磁気応答が生じることが明らかになってきました。私はこれらの電磁気応答を最先端のレーザーテクノロジーを駆使して研究し、物質の持つ新しい光応答の開拓に取り組みます。この研究の成果は、新たな学術領域を創出と、デバイス技術にも直結する革新的な光機能の実現につながります。

田中 雅臣

(川村パネル)

宇宙における重元素の起源の解明
原子物理学・プラズマ物理学と宇宙物理学を融合して、網羅的な重元素の原子データを構築し、重力波天体である中性子星合体からの電磁波シグナルを解読します。その結果を重力波観測と電磁波観測を融合した「マルチメッセンジャー天文学」観測データに応用することで、中性子星合体における元素合成を明らかにし、宇宙における重元素の起源の解明を目指します。

谷本 祥

(川村パネル)

高次元代数幾何と数論幾何の相互作用による新展開
円のように多項式で定義される図形を代数多様体と呼び、その上の座標が有理数になる点を有理点と呼びます。本研究では、高次元代数多様体を研究する高次元代数幾何学を有理点の問題に応用し、逆に有理点を研究する数論幾何学のアイデアを代数幾何の問題に適用して、代数多様体や有理点の基本原理の解明や知の発見を達成します。それにより、高次元代数幾何と数論幾何が融合した高次元数論幾何学の創出・発展を目指します。

田村 陽一

(川村パネル)※卒業(研究開始前)

次世代大型サブミリ波望遠鏡の限界性能への挑戦
大型サブミリ波望遠鏡と新たな検出器技術の発展によって、世界最大の電波干渉計・アルマの1億倍も及ぶ、宇宙探査体積の破壊的な拡大がもたらされると期待されています。そこで本研究では、口径50m超級の大型サブミリ波望遠鏡の実現を目指し、建築構造学や統計科学、超伝導電子工学との融合により、巨大構造を前提とした高精度アンテナの製作技術や補償光学技術、検出技術の創発に挑戦し、2030年代の天文学を牽引します。

辻 直人

(川村パネル)

高エネルギー超伝導物性物理学の創出
本研究では、従来の低温・低エネルギーの平衡状態や基底状態において発現する超伝導とは全く発想の異なる、高エネルギー領域の励起状態・非平衡状態において超伝導を誘起すること、およびその物性物理学を創出することを目指します。量子散逸・光励起・電場駆動などを用いて固体電子系や冷却原子系に隠れている高エネルギー超伝導状態を探索し、その物理的性質の解明と安定的な生成方法の研究を行います。

富安 亮子

(川村パネル)

生物由来の新しいパッキング生成法による離散モデリング
葉序・ひまわり頭部の形態モデリングに使用可能な密な点パッキングの生成方法として、黄金角を用いたものが知られています。この手法の適用範囲を、世界で初めて一般曲面および高次元に拡張したことで、同じ形を保って成長するという自己相似性を有する形態や、回折像に離散的な輝点を生成する離散構造の、新しい数理モデルが得られることが分かりました。本研究では、これらの現象の背景にある数理の研究を進めるとともに、生物・物質構造のモデリング・パターン生成、数値計算のメッシュ生成に手法を適用し、数理と科学的応用の相乗的発展を目指します。

新居 陽一

(川村パネル)

先端計測による強相関フォノニクスと熱機能の開拓
熱制御は環境の微小エネルギーを有効利用するという観点から極めて重要な研究対象です。しかし熱は主に電気や磁気に対して中性なフォノンと呼ばれる粒子によって運ばれるため、その制御は容易ではありません。本研究では強相関物質のフォノニクス機能に着目し、先端計測手法の開発と併せて遂行することで、新しい熱機能の開拓と熱流制御に向けた基盤技術の創出を目指します。

新見 康洋

(川村パネル)

原子層人工結晶の創製とスピン流プローブの学理構築
本研究課題では、超伝導や強磁性など相転移を示す層状物質を原子レベルの薄膜に劈開し、自由に貼り合わせることによって、天然結晶では創出できない人工結晶系特有の物性機能を発現させます。このような人工結晶は微小であるため、バルク物質に有効な測定手法は使用できません。そこで、スピントロニクス研究で重要な役割を果たすスピン流をスピンに敏感な新しいプローブとして用いることで、スピン流プローブの学理構築を目指します。

早水 桃子

(川村パネル)

離散数学と統計科学の融合による生命科学データ解析の技術革新
1細胞の遺伝子発現データから細胞の系譜を解明することは、幹細胞を用いた再生医療の研究などにも関わる重要な系統解析の課題ですが、その解決にはDNAの塩基配列などを用いる古典的な系統解析とは異なるアプローチが必要です。本研究では、1細胞の遺伝子発現データを活用した細胞分化の軌跡推定を可能にするため、離散数学と統計科学の融合によって細胞同士の関係を表すグラフ構造を推定して統計的信頼性を評価する手法を構築・整備します。

仏坂 健太

(川村パネル)

重力波宇宙物理学のための理論開発
重力波の発見によって重力波宇宙物理学が誕生し、これまで全く知らなかったブラックホールや中性子星の姿、これらの合体が引き起こす現象が明らかになりつつあります。私は、重力波天体現象を理解する上で必要な理論の開発を行い、それを観測データに応用することで、地上に存在する重元素の起源、高エネルギージェットの形成機構、宇宙線加速機構、宇宙の膨張率などの未解決問題の解明を目指します。

宮武 広直

(川村パネル)

多波長観測で拓く高赤方偏移宇宙論
宇宙誕生から約40万年後の宇宙の姿は宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の観測によって、現在から約80億年前までの姿は銀河像の重力レンズ効果の測定によって調べられてきましたが、その間の宇宙の構造はまだ調べられていません。本研究では、遠方宇宙の銀河分布と、それによって引き起こされるCMBの重力レンズ効果を組み合わせ、未踏の領域の宇宙の姿を暴くとともに、宇宙を支配する物理法則の解明を目指します。

2020年度採択

有川 安信

(川村パネル)

小型レーザー装置による高指向性スピン偏極熱中性子の直接発生と産業応用研究
ものづくり、安全安心の産業を支える新材料、医薬品、たんぱく質の開発には新しい分析技術が必要です。本研究では、指向性が非常に高く、エネルギーが単色で可変、磁気モーメントがそろった中性子を小型装置で発生させます。この手法を1〜3メートルテーブルにすべて、レーザー装置と中性子発生装置からなる装置を納めて、一企業でも所有できる装置を開発します。

石田 明

(川村パネル)

反物質量子凝縮体によるガンマ線レーザーの実現
電子とその反粒子である陽電子が対になったポジトロニウム原子によって、反物質を含む系における新しい量子縮退状態であるボース・アインシュタイン凝縮を実現し、これを光源に用いてガンマ線レーザーを実現します。既存技術より桁違いに高い周波数領域のレーザー技術を確立することで、光科学・素粒子・原子核・原子・宇宙物理学・材料科学・精密機械計測の各分野にまたがる新奇研究領域を創出します。

市來 淨與

(川村パネル)

散乱光を用いた新しい観測的宇宙論への挑戦
宇宙論では光速度が有限であることから、遠くの宇宙を観測することで過去の宇宙および宇宙の時間進化を調べてきました。この方法は宇宙が統計的に一様等方であるという仮定に基づいているものの、宇宙の異なる場所で比較することになり、どうしても偶然性を排除することができません。本研究では、散乱光を用いることにより、同じ場所の異なる時刻での直接比較を可能とすることで質的に新しい宇宙論の開拓を目指します。

打田 正輝

(川村パネル)

極限エピタキシー技術が拓く量子輸送の物理
化合物半導体に象徴されるように薄膜作製技術の向上は常に新しい量子輸送の物理を開拓してきました。本研究では、これまで結晶性・純度がそれぞれ課題となってきたヒ化物・酸化物の分子線エピタキシー成長技術を極限まで追求することで、トポロジカル・強相関物質の高品質なエピタキシャル薄膜とヘテロ構造の作製について強固な技術基盤を構築し、将来のエレクトロニクスの可能性を切り拓く革新的量子輸送機能の創出を目指します。

榎戸 輝揚

(川村パネル)

宇宙放射線による月の水資源探査から月面天文台への挑戦
月への進出には水資源の効率的な探査が重要です。月に降り注ぐ銀河宇宙線は表面下の核反応で中性子を生成し、水があれば熱中性子として漏れ出します。本研究では、宇宙放射線の測定技術を活用し、月面ローバーに搭載可能な非接触の中性子水モニタを開発します。これを高エネルギー大気物理学や地上の土壌検査にも応用し、超小型衛星による宇宙実証も狙います。さらに、月面での放射線の測定から史上初の月面天文台を目指します。

太田 雄策

(川村パネル)

超稠密海陸測地観測によるジオハザード連続監視
本研究では超稠密な海陸の測地観測網によるジオハザードの連続監視を実現し、地震による津波、火山噴火、集中豪雨等のジオハザードをリアルタイムで監視するとともに、その推移を即時的に、かつ誤差とともに予測する技術の獲得を目指します。同技術の社会実装により監視コストの劇的な低減およびジオハザードからの避難行動の様式に変革がもたらされ、ジオハザードに対する防災・減災に対して破壊的イノベーションが期待されます。

菅原 春菜

(川村パネル)

微生物変成実験とバイオマーカー分析から目指す火星生命痕跡の検出
火星衛星探査計画(MMX)による火星衛星フォボスからのリターンサンプルの中に、火星粒子が存在することが示唆されています。本研究では、この火星粒子から火星生命の痕跡を検出することを目指し、微生物を人工的に化石化・変成させる実験を行い、物理化学的な変化を明らかにすると共に、有用なバイオマーカーを選定し、極微小の火星粒子から最も確実に火星生命の痕跡を検出するための有機化学分析技術開発を行います。

鈴木 はるか(丹治 はるか)

(川村パネル)

真空場の積極活用による量子技術の開拓
空間には、光子(光のエネルギーの最小単位である粒子)が存在しない場合でも光子1/2個分のエネルギーを持つ場(真空場)が存在します。本研究では、真空場を通常の光子と同じように活用するための基盤技術を開拓し、真空場による光や物質の制御の可能性を探ります。これらを通じて、産業や医療などの様々な分野で多くの波及効果をもたらしたレーザーに続く、社会において有用な新たな“光”としての真空場の活用を目指します。

田中 一成

(川村パネル)

精度保証付きニューラルネットワーク数値計算理論の確立
ニューラルネットワークは世界的に利用が進んでいる機械学習のベースとなる構造で、関数近似手法としても注目されています。本研究では反応拡散モデルと呼ばれる微分方程式を主な対象として、その効率的な精度保証法の開発にニューラルネットワークをベースとした手法で挑みます。これを通じてLearn and Verifyという新スタンダードを創出し、精度保証付きニューラルネットワーク数値計算としての普及を目指します。

段下 一平

(川村パネル)

テンソルネットワーク法と量子シミュレータで切り拓く新奇量子多体現象
量子力学に従う構成要素が多数集まり相互作用する系は量子多体系と呼ばれます。量子多体系においては系の大きさに対して数値計算のコストが指数関数的に増大してしまうことから、その理論解析は一般的に困難です。本研究では、最先端の数値計算手法とアナログ量子シミュレータを組み合わせて利用することでこの困難を回避します。それによって、未解決の難問を解決し、新奇な量子多体現象を予言します。

中村 伊南沙

(川村パネル)

トポロジーを用いたグラフの変形過程の解析と応用
グラフなどの変形過程を解析する新たな手法をトポロジーや曲面結び目の理論を用いて開発することを目標とします。時間軸を4次元目とみなすと、3次元空間内のグラフの変形過程は4次元空間内の対象になっています。4次元空間内の「曲面結び目」やそれに似た曲面を、より明確に扱えるようになることを目指し、さらに、情報科学、工学、生命科学、芸術などの幅広い他分野における、数理科学の分野を超えた応用を模索します。

南部 雄亮

(川村パネル)

新しい偏極中性子散乱による次世代デバイスの微視的理解
中性子散乱は物質科学における強力な微視的測定手段です。研究者自らが新たに考案した中性子スピンを含めて解析する偏極中性子散乱手法により、次世代デバイスであるスピントロニクスと超伝導を対象とした研究を展開します。次世代デバイスの研究では電圧測定等、これまで巨視的な知見が蓄積されていますが、実用化には微視的な情報が不可欠です。新散乱手法を用いて微視的機構の解明とそれによる物質設計指針の獲得に繋げます。

松尾 太郎

(川村パネル)

革新的分光技術による宇宙生命探査
本研究は、太陽系の近傍にある、生命を宿す候補の惑星大気を分光する技術を確立して、2030年代に打ち上げが検討されている宇宙望遠鏡において生命探査を実現するものです。また、理学と工学の研究者が連携をして、超小型衛星の編隊飛行による宇宙干渉計を世界で初めて実現し、天文観測だけでなく、地球観測や太陽系内の観測性能を飛躍的に向上します。

松本 伸之

(川村パネル)

大質量機械振動子を用いた巨視的量子力学分野の創発
従来の量子計測の対象は、原子や光子といった微視的なものでした。本研究では、重力相互作用の観点から十分に巨視的な、つまり重い機械振動子(振り子)の振動を単一量子レベルで計測し制御するための新技術を開発します。これにより、量子力学の適用範囲を極めて巨視的な系に拡張すること自体が興味深いことに加え、他の系では実現が困難な、重力と量子の境界領域における物理学のフロンティアの開拓につながります。

松山 智至

(川村パネル)

超高分解能アダプティブX線顕微鏡の実現
電池や触媒のような複雑な試料の内部構造を非破壊・高分解能で可視化するために、高分解能X線顕微鏡が求められています。空間分解能はレンズの作製誤差によって劣化しますが、高分解能X線レンズの作製はすでに技術的限界に到達しつつあり、ブレイクスルーが必要です。この問題を解決するために、アダプティブ反射レンズを用いた超高分解能X線顕微鏡の実現に挑戦します。これによって電子顕微鏡に匹敵する分解能を目指します。

矢島 秀伸

(川村パネル)

宇宙物理輻射輸送計算で拓く新しい生体医用光学
本研究は、研究者自らが理論天文学の研究で培った大規模輻射輸送計算技術を医学へと応用し、新たな医療診断法である生体光イメージング技術の確立を目指すものです。天文学、ビッグデータサイエンス、機械学習、医用光学の最先端技術を結集し、国際的なデータバンク、新たな構造解析システムを構築します。これにより、ゼロ被曝かつ非侵襲で安全な医療診断システムの開発において破壊的イノベーションを巻き起こします。

米倉 和也

(川村パネル)

物質の新たなトポロジーへの数理的アプローチ
一見全く異なる物理のシステムが、普遍的な法則に従っていることが多々あります。その背後にはそれらの法則を支配する共通の数学的枠組みがあります。この研究ではまず、豊富な数理構造を持つ素粒子理論の数学的枠組みを対称性とトポロジーの観点から追求し、そこから物性物理にまで適用可能な普遍的法則を抽出します。さらに、それによって物質の未知の性質としてどのような理論的可能性があるかを探索します。

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