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研究人材流動の関連政策を巡る主要国の動向 -2025年上半期-

エグゼクティブサマリー

研究人材の国際的流動は、各国の科学技術・イノベーション(Science, Technology and Innovation:STI)を支える基盤として、公共政策としての取り組みの重要性が増しており、近年のSTI競争に伴い、優秀な人材を巡る動きが激化している。日本では、世界の研究者の流動において、「日本と諸外国の間での研究者交流が停滞」しているとの問題意識から政策議論が行われている。

2025年上半期においては、米国をはじめ主要国における政権交代などに伴い、STIに関わる国際情勢の変化が激化しており、研究人材流動に関する取り組みも活発化の兆しを見せている。

本資料は、主要国・地域(米国、EU、フランス、ドイツ、英国、中国、日本)の研究人材流動に関する取り組みとして、基本的な政策方針および2025年上半期の動向を速報として報告するものである。

主要各国の動向まとめ

  • 米国:政権の価値観に反する政策 (DEI推進、気候変動対策など) の廃止による、関連研究開発活動の停止・縮小、留学生のビザ取り消しや、行政部門の効率化のためのSTI関連機関の規模縮小などを実行。政権の価値観に則した政策の実行や行政部門の効率化が優先事項とみられ、研究人材流動に関する新たな国の取り組みは確認できていない。
  • EU:EU域外からの研究人材の誘致・定着を掲げた大型支援パッケージ "Choose Europe for Science" を2025年5月に発表(2025-27年、5億ユーロ規模)。既存施策の強化と新規枠組みにより、助成の新設や期間の延長、ビザ戦略を盛り込んでいる。
  • フランス:EUと連動して、海外研究者招聘に関する大学等研究支援プラットフォーム "Choose France for Science" を2025年4月に発表(2025-27年・1億ユーロ規模、7分野を対象)。その他、ビザ関連法案の議会提出や、各大学による "Safe Place for Science" などの動きもみられる。
  • ドイツ:EUと連動して、国際的に優秀な研究者を誘致する枠組み "1,000 Heads Program" を2025年6月に発表。マックスプランク協会、独立系バイオ医薬研究機関、医療系非営利団体も研究者支援を表明。現時点では研究者対象のイニシアチブが中心。
  • 英国:2025年6月に、新たな産業戦略 "The UK's Modern Industrial Strategy" を発表。グローバル人材タスクフォースを新設し、ビザ改革やグローバル人材基金計画の取り組みを推進する。その他、AI分野のトップ研究者を招聘するTuring AIフェローシップのグローバル枠を拡大。
  • 中国:2008年の「帰国促進政策(海亀政策)」および2018年以降の米国のチャイナイニシアチブ以降、中国への帰国促進の動きが加速。2020年以降は留学生も出国より帰国が優勢となっている。2025年3月の政府活動報告にて、「海外から誘致した人材の支援拡充・保障の仕組み整備」と明記。
  • 日本:2025年6月、海外からの優秀な研究者招聘など国際頭脳循環の取組強化に向けた "J-RISE initiative" を発表、「グローバル卓越人材招へい 研究大学強化事業(EXPERT-J)」などに着手。グローバル・スタートアップ・キャンパス構想の先行的活動として、ディープテック分野の研究者集積に向けた取り組みや「人材育成(フェローシップ)プログラム(GP-ONE)」も開始。

※本報告書の参考文献としてインターネット上の情報が掲載されている場合、当該情報は2025年7月30日に入手しているものです。