細胞内反応の計算予測

エグゼクティブサマリー

本報告書は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)が令和7年8月8日に開催した科学技術未来戦略ワークショップ「細胞内反応の計算予測」の内容をまとめたものである。

本ワークショップ開催の背景として、昨今の科学技術の発展によって、細胞の中で何が起きているかを詳細に知り、高い精度で介入・操作するための基盤技術の研究開発が進んでいるということがある。例えば、人類は、遺伝的・化学的な介入によって生物が持つ機能を改変することで、疾患の治療・予防、有用物質の生産、品種改良など多くの恩恵を歴史的に享受してきた。しかし、想定外の影響を避け、望む特定の反応や機能だけを効率的に得るには、特定の細胞内反応や経路に正確に介入することが重要である。

しかし、このような介入が、周辺環境、細胞間の相互作用、細胞の不均一性も含めて細胞内反応やその結果としての細胞機能にどのような効果や影響を及ぼすかを事前に予測・把握することは依然として難しく、生命科学・医科学における研究開発の加速を阻害している。これは、健康・医療に関わる医薬品開発や持続可能な開発に貢献すると考えられるバイオものづくりなどの応用面におけるボトルネックともなっている。これらの研究開発は依然として多くの実験的試行錯誤が必要で、その成功率の低さが課題となっている。

この課題に対して、計算科学・AI技術分野と生命科学・医科学の融合をいかにして成し遂げるかが世界的にも重要視されている。細胞内反応および機能に対する介入の影響を事前に計算機上で予測し、試行できる技術が発展すれば、生命科学・医科学の研究開発が大幅に加速される。更に、実験的試行のみでは難しい、未知の組み合わせや条件などの探索範囲の拡張や検証などが計算機上で可能になる。このような予測技術の発展は、生命現象の解明と理解の深化だけではなく、医薬品開発やバイオものづくりといった社会課題解決に資する研究開発においても極めて重要である。

こうした背景を受け、JST-CRDSでは、「細胞内反応の計算予測」に関する研究開発の戦略提言に向けた調査活動を進めている。その一環として、具体的な研究開発課題や研究推進体制について議論・検討するため、関連分野を先導する有識者を招聘し、クローズド形式のワークショップを開催した。ワークショップでは各有識者から国内外の研究開発への取り組み状況や課題、最新動向についての情報共有が行われた。総合討論では、以下の観点に関する議論が行われ、今後の方向性が示唆された。

  • 提案の妥当性と推進すべき研究開発戦略
    ・テーマの妥当性・適時性、何をターゲットとすべきか
    ・取り組むべき開発課題と時間軸
  • 科学技術や社会・経済への想定される効果
    ・中期的(5~10年後)科学技術上の効果、社会・経済的効果
    ・長期的(10~20年後、その後)に実現可能となる社会像
  • 成果の最大化に向けた研究推進戦略
    ・多様な分野の効果的な連携・融合に向けた戦略
    ・既存施策との関係

これらの議論を踏まえ、CRDSでは今後、国として重点的に推進すべき具体的な研究開発課題および研究開発の推進方法を検討し、とりまとめたものを戦略プロポーザルとして関係府省や産業界、アカデミアへ提案する予定である。

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