第287回「産学橋渡しの多様性と深化(4) 共創、ズレから価値発見」
役割分担超える
産学連携のかたちは、時代とともに変遷している。かつては大学と産業界とが明確な役割分担を引き受ける、リニアな連携が主流であった。しかし2000年代以降、役割分担論を超えて一体的な研究開発に取り組む、共創型の実践が欠かせない。
しかし、「共創」と聞いて、「なるほど、共に創るのか」と早合点するのは待ってほしい。実際、「共に創ろう」と大学との共創を試みたとしても、うまくいくとは限らない。
なぜか。そもそも取り組む人々に、共創の場で新たな価値がどのようにして創出されるか、その仕組みが十分に共有されていないからかもしれない。
異なるバックグラウンドを持つ2人が、ある医療機器の開発を考えているとしよう。1人は、「機器なのだから、技術精度の向上が先決だ」と言う。またもう1人は、「医療なのだから、クライアントの体験価値の向上が先決だ」と言う。2人の対話は平行線をたどり、とうとう仲たがいしてしまった。
どうすれば良かったか。対話の本来の目的は、互いのズレを確かめ合い、他者との緊張感を伴う相互作用を通じて自己を変容させながら、新たな価値を発見・創出することにある。すなわち、主張のズレは当然のこととして認め、他者がなぜそう思うのか、なぜズレるのかを整理する。その上で、それぞれの主張には還元されない、より包括的な価値の発見を試みる。折衷案や妥協案ではなく、納得感を持って合意できる、「私たちにとっての価値」を共創する。ここでの納得感が、その後のアクションへのモチベーションと責任感を生む。
橋渡し人材カギ
例えば先の例では、機器利用におけるクライアントの精神状態の安定は、計測精度向上に貢献するかもしれない。また技術精度の向上は、効率的な計測を可能にしてクライアントの満足度向上に貢献するかもしれない。
ここでカギとなるのが、産学の橋渡しを担う人材である。橋渡し人材は、産学の後ろに潜む黒子に徹していてはもったいない。自ら積極的に共創の場を開き、対話の中から新たな価値を発見して提案する、プロデューサーとしての役割が期待される。
産学共創は出発点からして、そもそも異質な者同士が集まる希有な場である。異質な者同士は異質なアイデアを生む。異質なアイデア同士の組み合わせは、イノベーション(=新結合)を生む。場のアイデアを生かすか殺すかは、プロデューサーの腕にかかっている。
※本記事は 日刊工業新聞2025年5月2日号に掲載されたものです。
<執筆者>
阪口 幸駿 CRDSフェロー(横断・融合グループ)
同志社大学大学院脳科学研究科博士課程修了。同志社大学で特別任用助教、府省で事務官を経て24年より現職。分野横断的な検討が必要なテーマの調査を担当。博士(理学)。
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