研究代表者・研究課題

HOME 研究代表者・研究課題 平成25年度採択 石谷治

化学の力で太陽光エネルギーを分子に蓄える | 石谷治 | 東京工業大学 理学院 教授 | 専門:光反応科学、金属錯体の光機能、光触媒

課題名|Research Theme

太陽光の化学エネルギーへの変換を可能
にする分子技術の確立

概要|Outline

人工光合成技術の実用化の概念図

人類は、エネルギーや炭素資源の不足と地球温暖化という従来の技術では解決が難しい3つの難問に直面しつつあります。もし植物の光合成のように、太陽光と水、そして二酸化炭素から高エネルギー物質を作ることができれば、これらの深刻な問題を一度に解決できる可能性があります。本研究では、二酸化炭素を還元固定化するために必要な、金属錯体光触媒開発の分子技術を極め、さらには半導体光触媒との複合化等により、二酸化炭素の資源化を可能にする新たなサイエンスを構築します。

特色|Feature

可視光をエネルギー源、水を還元剤として用いCO2の還元を効率よく行うことのできる光触媒は未だ開発されていない。また、これまで開発されてきた光触媒は希少金属を使うものに限られている。これらの問題を解決するための新たな分子技術を、我々のこれまでの知識と経験を基盤とした大胆な分子設計と、多様な半導体との複合化や新しいシステムの構築とを組み合わせにより、飛躍的に高めることを目指す。

研究代表者

石谷 治
東京工業大学
理学院
教授 研究室HP

主たる共同研究者

小池 和英
産業技術総合研究所
環境管理研究部門
主任研究員
野崎 浩一
富山大学
大学院理工学研究部
教授
恩田 健
九州大学
大学院理学研究院
教授
 
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6年度の成果|Results Y2018

これまでの研究成果(インパクト)

  • ヘテロレプティック型Cu(I)錯体の可視部の光吸収の強化を目指し、種々の置換基RをCu(I)錯体のフェナントロリン配位子に導入した。Rとして2-Benzofuranyl (2Bzfu)基を導入した場合、Cu(I)錯体の光吸収は、無置換のものに比べ40 nm長波長シフトし500 nmまで延伸した。Mn(I)錯体触媒との組み合わせた光触媒反応により、436 nm光照射において高効率(量子収率30%)でCO2還元光触媒反応が進行した。
  • これまで用いていたRu(II)錯体の代わりに、より強い酸化力を示すIr(III)錯体を組み込んだ超分子光触媒を合成し、半導体とのハイブリッドがCO2還元反応の光触媒機能を示すことを確認した。さらに、光酸化力の弱いOs(II)錯体の合成にも成功した。この錯体は、光酸化力が弱いにもかかわらず、半導体TaONに吸着させた複合系は良好なCO2還元特性を示した。
  • Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒の水中での固体表面での安定性の向上のため、ビニル基を有する錯体の電解重合によるポリマー化を用いた新規の修飾手法を開発した(下図)。
    この分子光カソードは  100時間の長期反応においてCOとギ酸をそれぞれ21.3 μmol、 25.7 μmol生成した。 CO2還元反応のターンオーバー数は1200を超え、従来のホスホン酸アンカーだけを用いた系と比べ一桁以上上昇した。 CO2還元反応の選択率は92%であった。光触媒活性は、更に長時間維持されていることが確認された。

今後の進め方

  • 飛躍的な機能強化が達成された分子光カソードを用い、水を還元剤としたCO2還元光触媒システムの光性能化を目指す。
  • 分子光カソードの性能向上に効果のあった(1)p型半導体CuGaO2電極への銀微粒子の担持と(2)ポリマーによる電極への超分子光触媒の修飾手法を合わせ用いることで、さらなる分子光カソードの機能向上を試みる。
  • CO2の捕集機能を有する金属錯体触媒の中心金属やCO2捕集補助配位子、trans位の配位子等を変化させることで、CO2捕集機能を飛躍的に向上させる。
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5年度の成果|Results Y2017

図. 有機半導体C3N4とFe錯体を用いたCO2還元光触媒系

これまでの研究成果(インパクト)

  • Mn(X2bpy)(CO) 3X型錯体を触媒、Cu錯体を光増感剤とする高効率CO2還元光触媒反応(量子収率0.57, ターンオーバー数1000以上)を新たに見出した。これは、卑金属のみからなるCO2還元光触媒反応では、これまでに報告された中で最高の値である。また、Cu錯体光増感剤の光化学的初期過程について、レーザー分光法により励起状態ダイナミクスの解明を行い、光電子移動の重要な中間体であるCu錯体光増感剤還元体の直接観測に成功し、この生成プロセスについて明らかとなった。
  • ナノシート構造を有する有機半導体カーボンナイトライドC3N4を光増感部位、Fe錯体([Fe(qpy)(H2O)2]2+ (qpy= 2,2′:6′,2″:6″,2‴-quaterpyridine))を触媒部位とすることで、卑金属のみで構成される高効率なCO2光触媒還元反応系を世界に先駆けて構築することに成功した(右図)。
  • Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒(RuRe)をp型半導体CuGaO2電極に固定化したCO2還元反応用光カソードを開発した。CoOx/TaON光アノードと組み合わせることにより、これまでに報告したNiO電極を用いた結果では必要だった外部バイアスを印加することなく可視光のみで水を電子源としたCO2の光還元系の構築に世界に先駆けて成功した。
  • DMF/TEOA系でのRe(I)錯体による高効率CO2還元反応について、DFT 計算に基づいて反応機構を検討し、還元反応でのTEOAの役割を明らかにした。Cu(I)ジイミン二核錯体の超高速蛍光分光測定を行い、他のCu(I)錯体よりも最低励起状態の構造変化が小さいことが、レドックス光増感剤として良好な理由の一つであることを明らかにした。

今後の進め方

  • Cu二核錯体光増感剤の1電子還元体からMn錯体触媒およびFeイオン複合体触媒系への電子移動過程等をさらに詳細に検討し、貴金属や希少金属を用いないCO2還元光触媒系のさらなる効率向上を目指す。また、光増感剤と触媒を架橋配位子で繋いだ超分子光触媒化、さらには半導体光触媒とのハイブリッド化を試みる。
  • 光増感部を種々変えた超分子光触媒を合成し、それらを光カソードへと展開する。
  • 昨年度末導入した、時間分解紫外可視吸収測定装置(picoTAS)を活用することで、CO2付加体への電子注入からCO生成までの全過程の機構解明を目指す。
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4年度の成果|Results Y2016

これまでの研究成果(インパクト)

  • Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒とCuGaO2半導体電極からなるCO2還元用光カソードと、水を酸化できる助触媒CoOxを担持したTaONを光アノードとして組み合わせることにより、外部バイアスを掛けることなく、可視光をエネルギー源、水を還元剤としたCO2の光触媒還元を駆動することに成功した。これは、分子光触媒を用いて水のよるCO2の還元が達成された初めての例である。
  • Cu(I)2核錯体を光増感剤、Mn(I)錯体を触媒として用いた高効率CO2光還元触媒反応系の開発に世界に先駆けて成功した。 Mn(I)錯体触媒の配位子に様々な置換基を導入することで、CO2還元活性点の電子的、立体的因子をコントロールし、 CO2還元生成物であるCOとギ酸の生成比をコントロールすることに成功した。
  • Ru(II)複核錯体を、銀微粒子を担持したカーボンナイトライド(C3N4)に吸着担持した複合体(RuRu/Ag/C3N4)が、水溶液中においても高選択的にCO2還元を駆動する光触媒として働くことを明らかにした。
  • 脱プロトン化したフェノールやトリエタノールアミンを配位子とするMn(I)錯体およびRe(I)錯体、高効率にCO2を分子内に取り込む反応を詳細に検討した。その結果、Re(I)錯体を触媒として用いることにより、10%しかCO2を含まないガスを用いても、純粋なCO2を用いた場合とほぼ同じ効率で、電気化学的および光化学的CO2還元反応が進行することを明らかにした。

今後の進め方

  • Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒ーCuGaO2半導体複合光カソードの機能を大幅に向上させることを目指す。現状では水素が副成することが問題であるので、 CuGaO2上に水素発生の加電圧が高い種々の金属微粒子を担持し、水素発生を抑えつつ、 CO2還元反応の効率を向上させる。
  • 種々の光増感部を有する超分子錯体光触媒を合成し、種々の半導体と複合化したハイブリッド光触媒の機能を評価することで、ハイブリッド光触媒系に最適な超分子錯体光触媒開発のための分子技術を確立する。
  • 開発に成功したレドックス光増感剤Cu2核錯体の機能強化を目指す。具体的には、可視部の吸収強度の向上と長波長化である。
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3年度の成果|Results Y2015

図.Cu(I)2核錯体を光増感剤、Fe(II)錯体を触媒として用いたCO2光還元触媒反応

これまでの研究成果(インパクト)

  • 最も高効率かつ高耐久性を示す、CO2をギ酸に選択的に還元する光触媒の開発に成功
    Ru(II)3核錯体を光触媒とし、新たに開発した還元剤を用いることで、これまで報告された中で最も高効率かつ高耐久性を示す、CO2をギ酸に選択的に還元する光触媒の開発に成功した。
  • Cu(I) 錯体とFe(II)錯体を用いたCO2光還元触媒反応系の開発
    Cu(I)2核錯体を光増感剤、Fe(II)錯体を触媒として用いたCO2光還元触媒反応系の開発に世界に先駆けて成功した(図)。
  • 超分子錯体光触媒と半導体電極からなるCO2還元反応用光カソードを開発
    Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒とCuGaO2半導体電極からなるCO2還元反応用光カソードの開発に成功した。
  • 水中で機能するRu(II)複核錯体−半導体複合体光触媒を開発
    Ru(II)複核錯体-Ag担持TaON複合光触媒が水中でもCO2を効率よく還元し、ギ酸を高選択的に生成することを明らかにした。
  • 超分子光触媒ー有機半導体複合光触媒の開発
    Ru(II)複核錯体もしくはRu(II)-Re(I)異種2核錯体を、有機高分子半導体であるカーボンナイトライド(C3N4)に吸着担持した複合体を光触媒として用いることでCO2が効率よく進行することを見出した 。

今後の進め方

  • 平成27年度に開発したRu(II)-Re(I)超分子錯体光触媒とCuGaO2半導体電極からなるCO2還元反応用光カソードと水を酸化できる光アノードを組み合わせることにより、水を還元剤としたCO2の光触媒還元を達成する.
  • 半導体微粒子とのハイブリッド光触媒に最適な超分子錯体光触媒開発のための分子技術を確立する。特に、異相界面における電子移動に着目して研究を行う。
  • FeおよびMn錯体をCO2還元の触媒、Cu錯体をレドックス光増感剤として用いた反応の機構解明を目指すと共に、性能をさらに向上させる。
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2年度の成果|Results Y2014

図1:Re-TEOAによるCO2捕捉反応

これまでの研究成果(インパクト)

  • レニウム(I)錯体を用いることで低濃度CO2の高効率電気化学的還元を達成
    図1の反応で、低濃度においてもCO2がRe(I)錯体内に取り込まれる。生成したRe-CO2 TEOA錯体を用いて電気化学的に還元すると、効率よくCOが生成した。
  • マンガン(I)錯体による低濃度CO2の高効率な捕集反応の発見
    図1と同様のCO2捕集反応を、Mn(I)錯体でも達成できることを見いだした。Mn(II)錯体は、CO2還元触媒として注目を集めている。
  • 遷移金属錯体によるCO2捕捉能を理論的に予測することに成功
    分子軌道計算により、Re(I)およびMn(I)錯体のCO2捕集反応に関して予測する手法を確立した。
  • 水溶液中においても、Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒がCO2を効率よく還元できることを証明した 。
  • Ru(II)-Re(I)超分子錯体光触媒とNiOを融合した光カソードを用いることで光電気化学的CO2還元を達成した。
  • これまで報告されたCO2還元光触媒の中で最も耐久性の高い光触媒系を開発(TONHCOOH = 13000)した。

今後の進め方

  • 水を還元剤としたCO2の還元を,、これまで開発してきた超分子光触媒を中核として構築された2つのシステムで達成することを目指す。
  • 鉄およびマンガン錯体のCO2還元触媒としての機能を向上させる。また、銅錯体のレドックス光増感剤としても機能の向上を目指す。
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初年度の成果|Results Y2013

図1:開発に成功したMn錯体とRu錯体を用いたCO2還元光触媒系: Takeda, H. and Ishitani, O. et al, Photocatalytic CO2 reduction using a Mn complex as a catalyst. Chem. Commun. 2014, 50, 1491-1493.

これまでの研究成果(インパクト)

  • 可視光で駆動するCO2還元金属錯体光触媒を飛躍的に高機能化するために必用な分子技術の確立
    超分子光触媒の架橋配位子に酸素原子を導入することで、最も効率のよいCO2還元光触媒の開発に成功した。この錯体には、CO2を効率よく分子内に取り組む機能があることを見出した。
  • 元素戦略に則った光触媒の開発
    Mn(I)錯体を触媒として用いたCO2の還元光触媒系を世界で初めて開発することに成功した。本光触媒反応の初期において、Mn錯体はレドックス反応を経由したクラスター化を起こし、このMnクラスターが真の触媒として機能するユニークな機構で進行することが明らかになった(図1)。
  • 超分子錯体光触媒-半導体光触媒ハイブリッドによるCO2還元
    Ru(II)-Ru(II)超分子錯体光触媒とAg担持TaONとで構成されるZ-スキーム型光触媒の性能向上と反応系の多様化に成功した。
  • 水中における超分子錯体光触媒の挙動解明
    水単一溶媒中でCO2還元を駆動する初めての超分子光触媒の開発に成功した。

今後の進め方

  • RuやReなどの稀少金属をまったく用いないCO2還元光触媒の開発を目指す。
  • Z-スキーム型光触媒の、さらなる性能向上と反応系の多様化を進める。さらに、水を還元剤とする系への発展を試みる。

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