研究代表者・研究課題

HOME 研究代表者・研究課題 平成26年度採択 鈴木孝禎

小分子化合物による細胞機能制御の分子技術で難治性疾患の根本治療を目指します | 鈴木孝禎 | 京都府立医科大学 大学院 医学研究科 教授 | 専門:創薬化学

課題名|Research Theme

創薬を目指した
エピジェネティクス制御の分子技術

概要|Outline

エピジェネティクス制御の分子技術の概念図

後天的な遺伝子発現制御機構として知られるエピジェネティクスの異常により、がんや神経精神疾患などの疾病が引き起こされることが知られています。本研究では、標的誘導型合成などの有機化学的根拠に基づいた独自の化学研究を中心とし、物理学研究、生物学研究との領域貫通型研究を行うことで、創薬を目指した「エピジェネティクス制御の分子技術」の確立を目指します。本研究により、がんや神経精神疾患の革新的治療法が提示されることが期待されます。

特色|Feature

  • 有機化学的なアイデアを基にした分子レベルでの設計により、世界に先駆けて、がんや神経精神疾患の根本的治療を可能にするエピジェネティクス制御の分子技術を確立する。
  • 一般的な化合物ライブラリーに頼るしかない生物学を中心とした他のグループには出来ない独創的な創薬研究。
  • 実用性を高く意識した産学連携研究を推進。
  • 高齢化社会を迎える日本の医療が抱える問題に正面から立ち向かうチャレンジングな研究。
  • 革新的治療法を提示し、医療の新パラダイムを目指す。

研究代表者

鈴木 孝禎
大阪大学 産業科学研究所 教授 研究室HP

主たる共同研究者

岡本 祐幸
名古屋大学
大学院理学研究科
教授
内田 周作
京都大学
大学院医学研究科
特定准教授
酒井 敏行
京都府立医科大学
大学院医学研究科
教授
新井 義信
日本理化学工業(株)
顧問
 
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5年度の成果|Results Y2018

図1. リガンド-タンパク質間結合における
N+-C-H···O水素結合

図2. N+-C-H···O水素結合を考慮した
KDM5阻害剤の設計

これまでの研究成果(インパクト)

  • リガンド-タンパク質間結合におけるN+-C-H···O水素結合
    C-H···O水素結合は、弱い非共有結合性相互作用として扱われている。しかし、メチル化リシンのような、アンモニウムカチオンに隣接するC-H基(N+-C-H基)とO原子との間の水素結合(N+-C-H···O水素結合)であれば、ある程度強い結合になり得る。また、医薬品によく見られる構造の脂肪族アミン(pKaH ≈ 10)も、生理条件下(pH = 7–8)では完全にプロトン化されるため、低分子リガンド-タンパク質間結合におけるN+-C-H···O水素結合は、リガンドの結合活性を左右する重要な相互作用となる可能性がある。そこで、N+-C-H···O水素結合の重要性について、計算化学的解析、プロテインデータバンクの調査、実験的検証の3つの側面から検証した。その結果、リガンド-タンパク質間結合におけるN+-C-H···O水素結合は、タンパク質のリガンド認識において、重要な相互作用であることが示された(図1)。
  • N+-C-H···O水素結合を分子設計に用いたKDM5阻害剤の創製
    KDM5のTyr残基とのN+-C-H···O水素結合を期待して、脂肪族アミノ基を導入した阻害剤を設計した結果、高活性なKDM5阻害剤を見出した(図2)。

今後の進め方

  • N+-C-H···O水素結合を利用したアイソフォーム選択的KDM阻害薬の創製と治療薬としての応用研究
  • HDACアイソザイム選択的阻害薬の速度論解析による構造-選択性相関研究、計算化学研究、生物学研究
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4年度の成果|Results Y2017

図. KPZ532, KPZ540 (slow-bindingメカニズム(A))とKPZ560 (slow-bindingメカニズム(B))の遺伝子発現解析

これまでの研究成果(インパクト)

  • 速度論的ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の創製
    治療薬の標的タンパク質であるヒストン脱アセチル化酵素HDAC1/2にゆっくり結合し、ゆっくり解離する阻害剤KPZ532、KPZ540、KPZ560 の詳細な酵素結合メカニズムを調べ、 KPZ532、KPZ540 が1段階のslow-bindingメカニズム(A)でHDACに結し、KPZ560が2段階のslow-bindingメカニズム(B)で結合する阻害薬であることを見出した(上図) 。 KPZ560はKPZ532、KPZ540 に比べ、高いがん細胞増殖阻害効果を示し、細胞増殖やDNAダメージに関わる遺伝子の発現を亢進するというKPZ532、KPZ540とは異なる遺伝子発現パターンをした(下図)。slow-bindingメカニズム(B)で結合する阻害薬が治療薬として有効である可能性とそのメカニズムの一端が示された。
  • ヒストン脱アセチル化酵素SIRT2選択的阻害薬の創製
    ペプチド型NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素SIRT2阻害薬KPM-2の構造最適化研究を行い、ドラッグライクな構造であるジケトピペラジンを有するSIRT2阻害薬を見出した。

今後の進め方

  • 2段階のslow-bindingメカニズム(B)で結合するHDAC阻害薬の詳細な薬効メカニズム解析
  • HDACアイソザイム選択的阻害薬の速度論解析による構造-選択性相関研究、計算化学研究、生物学研究
  • Fe(II)-α-ケトグルタル酸依存的ヒストン脱メチル化酵素阻害薬の創製と治療薬としての応用研究
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3年度の成果|Results Y2015

図1. 抗乳がん剤タモキシフェンを乳がん細胞でだけ放出する分子

図2. SIRT2阻害薬の創製

これまでの研究成果(インパクト)

  • 小分子抗がん剤デリバリーシステムの開発
    ヒストン脱メチル化酵素LSD1阻害薬PCPAとそのLSD1阻害機構を基に、これまでに例の無い小分子型抗がん剤デリバリーシステムの分子技術を確立した(図1A)。プロトタイプとして作製したPCPA-タモキシフェン複合体は、マウス担がんモデルにおいて、抗乳がん作用を示した(図1B) 。
  • ヒストン脱アセチル化酵素SIRT2選択的阻害薬の創製
    ヒストン脱アセチル化酵素SIRT2-阻害薬複合体のX線結晶構造を基に、SIRT2選択的阻害薬を設計した。その結果、SIRT2のNAD+依存的脱アセチル化触媒作用を受けることにより酵素内で生成したADP-ribose複合体が、「基質結合サイト」 「NAD+結合サイト」 「SIRT2選択的結合ポケット」の3つのポケットを同時に占有することで、強力かつ選択的にSIRT2を阻害することを明らかにした(図2)。本SIRT2選択的不活性化薬は、高い乳がん細胞増殖阻害活性、高い神経成長活性を示したことから、抗がん剤、神経精神疾患治療薬としての可能性が示された。

今後の進め方

  • 小分子抗がん剤デリバリーシステムの一般性を検証する。
  • 亜鉛依存的HDACアイソザイム選択的阻害薬の速度論解析による構造-選択性相関研究、計算化学研究、生物学研究
  • Fe(II)-α-ケトグルタル酸依存的ヒストン脱メチル化酵素阻害薬の創製と治療薬としての応用研究
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2年度の成果|Results Y2015

図1. 抗乳がん剤タモキシフェンを乳がん細胞でだけ放出する分子

図2. HDAC1/2阻害薬の創製

これまでの研究成果(インパクト)

  • 抗がん剤をがん細胞だけに送り届ける小分子の開発
    ヒストン脱メチル化酵素LSD1に対する阻害薬PCPAとその酵素阻害メカニズムを基に、これまでに例の無い、抗がん剤(Tamoxifen)を乳がん細胞だけに送り届ける小分子を開発した(図1)。本小分子は、あらゆる抗がん剤に対して応用可能であり、副作用の少ない新規抗がん小分子として期待できる。
  • 疾患の原因となるヒストン脱アセチル化酵素に対する阻害薬の創製
    クリックケミストリーと呼ばれる手法を用いて、がんやアルツハイマー病の原因となるヒストン脱アセチル化酵素HDAC1/2に対する阻害薬を見出した(図2)。
    また、ゆっくりと酵素に結合し、ゆっくりと離れる阻害薬(時間依存的阻害薬)を見出した。その時間依存的阻害薬は、HDAC1/2だけを阻害した。本時間依存的阻害薬は、副作用が少なく、かつ薬効が持続する治療薬として期待できる。

今後の進め方

  • 抗がん剤をがん細胞だけに送り届ける小分子システムをさまざまな抗がん剤に応用する。
  • より強い薬効をもつHDAC1/2阻害薬を見出す。
  • 疾患の原因となるヒストン脱メチル化酵素に対する阻害薬を見出し、治療効果を確かめる。
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初年度の成果|Results Y2014

図1:HDAC9阻害薬の創製

図2:JARID1A阻害薬のドラッグデザイン

これまでの研究成果(インパクト)

  • ヒストン脱アセチル化酵素9(HDAC9)阻害薬の創製
    クリックケミストリーと呼ばれる手法を用いてHDAC阻害薬用の化合物群を合成し、その活性測定により、HDAC9阻害薬を見出した(図1)。本阻害薬は、制御性T細胞の誘導活性を示し、大腸炎などの自己免疫疾患に対する治療薬としての可能性が示された。
  • 時間依存的HDAC阻害薬
    ゆっくりとHDACに結合する阻害薬(時間依存的HDAC阻害薬)を見出した。また、阻害薬のHDAC3選択性を計算化学により説明した。今後の構造-時間依存性相関研究により、治療効果の高い、速度論的なHDAC阻害剤が見出される可能性が示された。
  • ヒストン脱メチル化酵素JARID1A阻害薬の創製
    C-H···O水素結合という化学的相互作用を考慮したドラッグデザインにより、JARID1A阻害薬を見出した(図2)。本阻害薬は、臨床薬として使われているHDAC阻害薬vorinostatの抗がん作用を高めることが分かり、JARID1A阻害薬の抗がん剤としての可能性が示された。

今後の進め方

  • 標的誘導型合成と呼ばれる創薬手法によるヒストン脱メチル化酵素LSD1阻害薬の創製と抗がん効果の検証
  • 高い薬効が期待される時間依存的HDAC阻害薬の速度論解析による構造-時間依存性相関研究、計算化学研究
  • 新規抗がん剤、神経精神疾患治療薬開発を目指したヒストン脱メチル化酵素阻害薬用化合物群の構築と活性測定

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