研究代表者・研究課題

HOME 研究代表者・研究課題 平成24年度採択 山下正廣

究極のグリーンIT量子デバイスを創成します | 山下 正廣 | 東北大学 材料科学高等研究所 教授 | 専門:錯体化学、ナノ金属錯体化学

課題名|Research Theme

分子技術による単分子量子磁石を用いた
量子分子スピントロニクスの創成

概要|Outline

図

単分子量子磁石(TbPc2)のSTM像

現在のエレクトロニクスやスピントロにクスにおいては、磁石として磁性金属や遷移金属酸化物のような古典磁石が用いられていますが、本研究の特徴は、21世紀の新しいナノ磁石(次世代型磁石)と呼ばれている単分子量子磁石を用いることです。この単分子量子磁石分子は、分子技術を最大限活用することで古典磁石とは全く異なる磁気特性や機能性を創製することが可能です。我々は、分子技術による単分子量子磁石を用いた「量子分子スピントロニクス」という全く新しい分野の創成を目指します。

特色|Feature

  • 従来の古典磁石に変わり、単分子量子磁石(SMM)をスピントロニクスに応用する。ボトムアップ法とトップダウン法を併用することにより分子技術を最大限に活用し、SMMの磁気特性・量子トンネル効果を利用したスピンデバイスを作成する。
  • 本研究は世界的にみても研究例の少ないナノハイブリッド物質の量子効果が関与する高次機能性の研究において世界をリードしている。
  • 従来のシリコンテクノロジーの限界を超えた究極のグリーンITデバイスの根幹となる可能性を秘めた独創的かつ挑戦的な研究である。

研究代表者

山下 正廣
東北大学
材料科学高等研究所
教授 研究室HP

主たる共同研究者

米田 忠弘
東北大学
多元物質科学研究所
教授
北河 康隆
大阪大学
大学院基礎工学研究科
准教授
白石 誠司
京都大学
大学院工学研究科
教授
 
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5年度の成果|Results Y2016

図1. ジアリールエテン配位子で架橋した2つのマンガンサレン錯体の結晶構造(a).光照射のオン・オフに伴うSMM特性のオン・オフに成功した(b).

図2. Ag(111)表面TbPc2分子のSTMのtopo像とコンダクタンスマッピング(右). Ag(111)表面TbPc2分子の配位子で測定されたdI/dV スペクトル. 1層目の分子(a), 2層目の分子(b).(c)外部磁場(2 T)印加時に観察されたディップ.

これまでの研究成果(インパクト)

  • 光異性化ジアリールエテン配位子を使用することで、メモリデバイスに使用可能な単分子磁石(SMM)の磁気特性を制御した(図1)。
  • 光照射前後でジアリールエテン配位子の6員環の開閉に伴いSMM挙動の有意な変化を引き起こした。
  • 光照射するだけでSMMの挙動をオン・オフすることができるため、SMMで構成された分子メモリデバイスの実現に向けた大きな一歩と言える。
  • Ag(111)表面のTbPc2の特異なスピン挙動を観測した(図2)。
  • TbPc2の単層吸着層はAu(111)吸着した場合に見られた近藤共鳴は示さない。
  • 一方、2層目に吸着したTbPc2分子については明瞭な近藤共鳴が観察された。
  • 2層目に吸着した分子では非弾性トンネル過程によるスピン励起過程が選択的に観察されることを初めて示した。

今後の進め方

  • 磁場・光・電気に応答する機能性単分子量子磁石を合成し、分子メモリデバイスへ応用する。
  • 分子構造と磁気的相互作用の関係をより詳細に明らかにし、物性のシミュレーションを行う。
  • 分子メモリデバイスの動作確認を行う。
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4年度の成果|Results Y2015

図1. フタロシアニン-ポルフィリン3層積層型TbIII錯体の障壁エネルギー(Δ)と積層角度(φ)の関係. 対称性がD4dからD4hに変化するにつれ、Δが減少していく.

図2. (a) Cu-Benzo(I)およびCu-TPCで得られたエネルギーの関数として電子状態密度をプロットしたグラフ。Iにのみ鋭い凹みとして近藤共鳴が観測される。銅コロール分子で計測されたグラフ(II)には近藤状態が観察されず、反磁性状態であると結論される. (b) Cu-Benzoの構造.

これまでの研究成果(インパクト)

  • 配位環境を利用して磁化緩和過程を制御
    • フタロシアニンとポルフィリン配位子を組み合わせることで、それぞれ積層角度φの異なる3種類の単分子磁石TbIII錯体を合成した [1 (φ = 4o), 2 (φ = 14o, 38o), 3 (φ = 32o)]。
    • 配位環境の対称性に依存してトンネル磁化緩和を制御することに成功した。トンネル磁化緩和を抑制することでブロッキング温度を高くすることができる。
    • 我々はAu(111)に吸着したTbPc2の分子の積層角度を変えることで近藤共鳴のスイッチング(On-Off)を実現したが、同時に磁気異方性のスイッチングも可能である。
  • 分子レベルでの磁性コントロール
    • 銅コロール分子とそれにベンゼン環を縮合したテトラベンゾコロール分子を用いそれぞれが非磁石、常磁性であることを実証した。
    • コロール分子は陰イオン価数が3価状態と2価状態の間のエネルギー差が小さいため分子のわずかな変化でその間を行き来する。

今後の進め方

  • ランタノイドイオン間の磁気相互作用を利用し、トンネル磁化緩和時間を制御することで単分子量子磁石のブロッキング温度を高くし性能を向上させる。
  • 単分子量子磁石を利用したトンネル磁気抵抗や巨大磁気抵抗効果をもちいて新しい情報記録デバイスを創製する。
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3年度の成果|Results Y2014

図1:フタロシアニン多重積層型TbIII錯体結晶構造.右から3層、4層、5層積層錯体. Tbイオン間距離は3層錯体TbTbで最も短い0.35 nmを示し、5層積層錯体TbCdCdTbでは0.99 nmとなる。

図2:Au(111)面上に吸着したTbPc2の電子構造.測定位置を8つのローブ上で変えながらSTS測定すると、STSピークの位置は周期的に数百ミリボルトだけシフトする. フェルミ準位の鋭いピークとして検出された近藤共鳴(近藤ピーク)も、ピーク幅および強度の周期的な変化を示している。

これまでの研究成果(インパクト)

  • ランタノイドイオン間相互作用磁化緩和過程を制御
    フタロシアニン多重積層型TbIII二核錯体に注目した。この錯体は、二つの2層積層型錯体TbPc2が非磁性のCdIIイオンやフタロシアニン(Pc)により連結したランタノイド二核錯体であり、3層、4層、5層と積層枚数が増加するごとに分子内TbIII間距離が増加する(図1)。磁気双極子相互作用はTbIII間距離の3乗に反比例することから、高積層型錯体においてTbIII間距離を制御することはTbIII間相互作用を制御することに等しく、TbIII間に働く相互作用が強ければトンネル磁化緩和(QTM)を阻害することができるが、弱い相互作用はQTMを促進してしまうことから、TbIII間相互作用がQTMの磁化緩和機構に影響を及ぼしていることがわかった。
  • 原子レベルでの分子-分子・分子-基板相互作用のコントロール
    TbPc2分子膜に対して得られたSTSスペクトルでは、フェルミ準位での近藤共鳴に加えて、占有状態由来の急激かつ強いSTSピークを観察した(図2)。分子間相互作用を反映して、 STSピークのエネルギー値と近藤共鳴幅(近藤ピーク)値が同期して変化することを観測した。スピンの原子レベルの可視化技術で示した。

今後の進め方

  • ランタノイドイオン間の磁気相互作用を利用し、磁化緩和時間を制御することで、単分子量子磁石の性能を向上させる。
  • 分子構造と磁気的相互作用の関係をより詳細に明らかにし、物性のシミュレーションへとつなげる予定
  • 単分子量子磁石の磁気電流特性について研究を進める
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2年度の成果|Results Y2013

図

図1:磁気相互作用と磁化緩和時間

図

図2:磁気相互作用と磁化緩和挙動

これまでの研究成果(インパクト)

  • ランタノイドイオン間磁気相互作用で磁化緩和時間を制御する
    単分子量子磁石(SMM)のランタノイドイオン間に働く磁気双極子相互作用が磁化緩和時間に与える影響を調べた(図1)。同じ配位環境にある、Dy二核錯体とDy単核錯体を合成し磁化緩和挙動を調べたところ、どちらの錯体も10 K以下で温度に依存しないトンネル磁化緩和挙動を示した。磁化緩和時間を比較すると、Dy二核錯体はDy単核錯体に対して一桁遅くなっており、単純に分子内磁気相互作用の有無が磁化緩和時間に影響していると考えられる。また、2種類の強磁性的相互作用をもつTb四核錯体の磁化緩和挙動を調べた結果、SMMを特性を担う中心ランタノイドイオンの空間配置が重要であることがわかった(図2)。
  • f電子とπ電子との量子化学研究に基づく磁気的相互作用の解明
    Tb3+イオン含有ダブルデッカー型フタロシアニン錯体のf電子とπ電子との量子化学に基づく磁気的相互作用の解明を行った結果、f-πの磁気的相互作用は弱いながらも強磁性的である事が明らかとなった。また、スピン密度解析の結果、強磁性的相互作用はスピン分極効果である事がわかった。

今後の進め方

  • ランタノイドイオン間の磁気相互作用を利用することは、磁化緩和時間を制御することにつながり、分子設計に生かしていく予定
  • 分子構造と磁気的相互作用の関係をより詳細に明らかにし、物性のシミュレーションへとつなげる予定
  • 単分子量子磁石の磁気電流特性について研究を進める
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初年度の成果|Results Y2012

図

図1:ヘテロ型単分子量子磁石

図

図2:中性有機ラジカル分子

これまでの研究成果(インパクト)

  • ヘテロ構造型単分子量子磁石の表と裏で近藤温度が変わる
    ヘテロダブルデッカー型フタロシアニン・ナフタロシアニンーTb(III)単分子量子磁石(TbNPcPc)(図1a)を金基板上に真空蒸着してSTM(走査型トンネル顕微鏡)を測定するとPcとNPcが交互に積層する(図1b)。それぞれの近藤温度(TK)は、Pcで30 K だが、NPcは50 Kを示した(図1c)。これは分子の電子構造を反映した結果を見事に現している。分子において表と裏で近藤温度に差があるという、これまでに考えもしなかった全く新しい概念を確立することに成功した。
  • 世界初、中性有機ラジカル分子の近藤共鳴を観測
    一般に有機ラジカルは不安定なものが多い上に、蒸着膜作製時の高温での超高真空状態に耐えうるものは限られている。このような条件を満たす有機ラジカルとして、三角形構造をした1,3,5-triphenyl-6-oxoverdazyl (TOV)中性有機ラジカルに注目した(図2a)。金基板上に真空蒸着してSTS(走査トンネル分光法)測定した結果、近藤共鳴を観測した(図2b-d)。TOVのケトン部位への水素付加で近藤共鳴が消滅する点で、「ケミカルドーピングによる近藤共鳴の制御」が期待できる。

今後の進め方

  • 分子の特徴を上手く捉えその性質を利用し、近藤共鳴による単分子メモリー作動操作とメモリーデバイスの可能性を探る
  • 導電性単分子量子磁石を合成し、その量子磁石に依存したスピン依存伝導の観測を目指す
  • 単分子量子磁石を用いたスピンバルブの作製と評価を行う

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