研究代表者・研究課題

HOME 研究代表者・研究課題 平成25年度採択 大井貴史

一電子制御技術で化学合成の革新を目指します | 大井 貴史 | 名古屋大学 トランスフォーマティブ生命分子研究所 / 大学院工学研究科 教授 | 専門:有機合成化学、触媒科学、分子認識化学

課題名|Research Theme

真の自在化学変換を担う分子技術の創出

概要|Outline

分子の自在化学変換の概念図

もし、あらゆる有機分子の任意の位置で、意図した方向に結合をつくることができれば、分子の形を自在に組み換えていくことができます。本研究では、ラジカル反応を高度に制御するための分子技術を創出し、この夢の実現を目指します。すなわち、フリーラジカル種の発生段階と結合形成段階を同時にコントロールできる分子性触媒を合理的かつ精密に設計することで、「真の自在化学変換」を担う基盤技術を確立します。これにより、将来にわたって人類の豊かな暮らしを支えるものづくりのイノベーションを起こします。

特色|Feature

  • 分子認識化学の概念を取り入れた、触媒設計における独自の基礎科学を基盤としたアプローチ
  • 光エネルギーを駆動力とする一電子移動反応の活性種を直接制御
  • 分子の構造や官能基に依存しない、高選択的な分子変換反応の開拓
  • 医農薬、エレクトロニクス材料、太陽電池等の開発において圧倒的優位を築くための、化学合成のパラダイムシフトをもたらす分子技術
 
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6年度の成果|Results Y2018

これまでの研究成果(インパクト)

  • シリルエノールエーテルの光触媒的酸化によるケトンの形式的β-官能基化を達成
    • 極性反応で汎用されるシリルエノールエーテルから、光触媒による一電子酸化と脱プロトン化によってアリルラジカルを発生させ、位置選択的ラジカル付加反応を実現した。
    • 形式的にケトンのβ位に官能基を導入できるため、複雑なカルボニル化合物を合成する新技術として高い価値がある。
  • キラル非配位性アニオンを創製
    • 新規キラルボラートイオンを設計・合成し、分子構造の堅牢性を確認すると共に、トリエチルアンモニウム塩の三次元構造をX線により明らかにした。
    • 対イオン交換法を確立し、キラルBrønsted酸触媒として高い性能をもつプロトン塩および光触媒活性をもつ金属塩を調製・単離した。
    • 開発したキラルボラートは、プロキラルカチオンに加えてプロキラルラジカルカチオンの制御に対しても有効であることを、高エナンチオ選択的反応の実現により示した。
    • 非配位性のキラルアニオンによるカチオン種の制御が現実的方法論であることを実証する成果と位置付けられる。

今後の進め方

  • これまでに創製したラジカル反応の制御に有効な触媒群を武器に、その特性を活かした反応開発に取り組む。
  • 本課題で得た知見を基に、様々な選択性を伴ったラジカル反応を実現し、真に有用な分子技術として結実させる。
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5年度の成果|Results Y2017

これまでの研究成果(インパクト)

  • キラル非配位性アニオンを創製
    • 新規6配位型キラルホスフェイトイオンを設計・合成し、トリエチルアンモニウム塩の三次元構造をX線により明らかにした。
    • 対イオンの交換法を確立し、プロトン塩を尿素錯体として単離した。
    • 調製したプロトン塩が、キラルBrønsted酸触媒として高い性能をもつことをモデル反応において示した。
    • 非配位性のキラルアニオンによるカチオン種の制御が現実的方法論であることを実証する成果と位置付けられる。
  • 光励起ケトン触媒による芳香環の直接的アシロキシ化反応
    • 身近なケトン分子を触媒量用いて入手容易な芳香環を直接的に酸素官能基化し、付加価値を高めることができる。
  • 光照射により生じるラジカルイオン対の触媒化学
    • 光照射により誘起されるLewis酸/塩基間での一電子移動プロセスを物理化学的に解析した。
    • 光照射によるラジカルイオン対生成を、炭素-炭素結合形成反応の実現につなげた。

今後の進め方

  • キラルイオン性触媒によるラジカルイオンの立体制御を実現。
  • 触媒的な水素引き抜き反応における位置選択性獲得を可能にする分子を創製する。
  • これまでに創製したラジカル触媒の特性を活かした反応開発に取り組む。
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4年度の成果|Results Y2016

PCET触媒の作用機序

光酸化/還元触媒として働くケトン分子

これまでの研究成果(インパクト)

  • プロトン共役電子移動触媒を創製
    • 塩基性アニオンとカチオン性電子受容部位をひとつの分子内に兼ね備えた、アクリジニウムベタインを創製した。
    • 詳細な機構解析により、適切な結合乖離自由エネルギーをもつ分子から、プロトン共役電子移動機構(PCET)でラジカルを発生させる力をもつことを強く示唆する知見を得た。
    • この発見は、生体内の鍵反応のひとつであるPCET反応を人工の触媒で再現できることを実証するものである。
  • 光励起ケトンを一電子還元剤とする芳香環の直接アミノ化反応
    • 光励起ケトンに潜在する一電子還元能の合成化学的な価値を初めて明確に示した。
    • 身近なケトン分子を触媒量用いるだけで、入手容易な芳香環を直接的に窒素官能基化し、付加価値を高めることができる。
  • イミンの光化学を開拓
    • 目立った光反応性を示さないとされてきたイミンに、隠された光触媒活性があることを初めて明らかにした。
    • 適切な分子修飾により、多彩な光触媒機能を発現するイミン分子が生み出し得ることを実証した。

今後の進め方

  • ラジカル反応の立体制御を念頭に置いた反応開発を推し進める。
  • PCET触媒を新たな反応系に適用するとともに、光エネルギーの利用および立体選択性獲得に挑む。
  • 位置選択的なラジカル生成を実現できる触媒構造の設計・合成と、機能評価を継続する。
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3年度の成果|Results Y2015

一電子移動の順序への非依存性

反応機構解析

これまでの研究成果(インパクト)

  • 光酸化/還元反応の一電子移動過程順序への非依存性を実証
    • 可視光励起イリジウム錯体の酸化的消光過程から始まるラジカル反応を、キラル酸触媒の作用によって高エナンチオ選択的に実現した。
    • 犠牲試薬を必要としない光酸化/還元反応において、一電子移動過程の順序が反応効率に影響を及ぼさないことを実証した。
    • この発見は、光触媒反応の開発を目指す研究に多くの示唆を与える。
  • ベタイン型電子移動触媒の創製と機能解析
    • ラジカルエノラートの二量化に有効な分子内イオン対型電子移動触媒を創製した。
    • 反応機構解析により、創製した触媒固有の構造が反応加速に重要であることを明らかにした。
  • 芳香環の直接アミノ化に有効なエネルギー移動型触媒の発見
    • 電子不足窒素ラジカルの芳香環への付加を実現する、光反応システムを構築した。
    • 酸化/還元を伴わないため犠牲試薬が不要のプロセスとして有用性が期待できる。

今後の進め方

  • イオンラジカルを経る反応系における立体制御を目指し、一電子移動の順序を含めた酸化/還元系の設計を行う。
  • 二官能性電子移動触媒の機能を引き出し、新たな反応系への適用と立体選択性獲得に挑む。
  • 位置選択的なラジカル生成を実現できる触媒構造の設計・合成と、機能評価を継続する。
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2年度の成果|Results Y2014

触媒設計コンセプト

新規電子移動触媒の電子構造

これまでの研究成果(インパクト)

  • 一電子移動反応を加速する触媒を創製
    ・分子内に一電子酸化/還元を担うユニットと基質の活性化および認識を担うユニットを併せ持つ、二官能性の電子移動触媒を設計・合成した。
    ・実際の触媒機能をモデル反応で評価し、分子構造に起因する高い活性の発現を確認。
    ・本触媒設計コンセプトは、一電子移動をきっかけとするラジカル反応の適用範囲の拡大に寄与すると期待できる。加えて、開発した触媒系は分子状酸素を再酸化剤とする点に特徴を持つ、グリーンなプロセスである。
  • 水素引抜反応に有効な触媒部分構造の同定
    ・炭素-水素結合の開裂によるラジカル生成の制御を実現するために、直接的で位置選択的な水素引抜を可能にする触媒分子の設計に着手。
    ・分子構造が触媒の水素引抜能力に与える影響について精査し、ラジカルの生成に有効な触媒の最小部分構造を明らかにした。
    ・水素引抜部位と基質を空間的に適切な位置に配置し、選択的な結合形成へとつなげ得る触媒分子創製への基盤となる知見を得た。

今後の進め方

  • 一電子移動により生じるラジカルの制御を志向した触媒分子の修飾を継続し、位置・立体選択的な反応の開発へと展開する。
  • ラジカル種の発生を担う触媒の構造と反応性、位置選択性についての基礎的なデータ収集を継続する。
  • ラジカルを生じる水素引抜反応の遷移状態制御に加え、続く結合形成の立体制御を目指す。
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初年度の成果|Results Y2013

図1:ラジカル反応の制御に有効な酸触媒の構造

図2:反応経路自動探索法による反応機構解析

これまでの研究成果(インパクト)

  • ラジカル反応の立体制御に有効な酸触媒の発見
    可視光増感剤の作用により生じた炭素ラジカルを用いる触媒的カップリング反応系を組み上げ、結合が生成する方向を高度に制御するための触媒を見出した。また、詳細な機構解析に取り組み、反応における電子移動過程についての理解を深めた。
  • 炭素ラジカルを活性種とする新たなカップリング反応を開発
    位置選択的に生成させた炭素ラジカルを活性種とする、新たな還元的カップリング反応を案出した。反応の開発過程で、ラジカル中間体の性質についての基礎的な知見が得られ、ラジカル種の発生位置制御への端緒となる成果と位置付けられる。
  • ラジカル種の発生を担う分子触媒の合成に着手
    π結合の開裂を伴うラジカル種の生成プロセスの理解と新たな分子変換の創出に必要な分子触媒を設計し、合成に着手した。
  • 計算科学的アプローチによる機構解析を開始
    上記の炭素ラジカルを用いる立体選択的なカップリング反応について、反応経路自動探索法による機構解析を開始した。

今後の進め方

  • 酸触媒を用いるラジカル反応の立体制御への取り組みを継続し、挑戦的な分子変換の開発につなげる。
  • ラジカル種の発生を担う触媒の構造と反応性、位置選択性についての基礎的なデータを収集する。
  • ラジカル反応の立体選択性の起源に理論化学的に迫る。
  • 光増感剤の励起状態を系統解析しラジカル生成機構を理解する。

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