2023年6月27日

第75回 メタサイエンスとは何か ~「営みとしての科学」を理解し、よりよく変えていく研究・実践の胎動~

近年、「メタサイエンス」という言葉を聞く機会が増えてきた。メタサイエンスとは、科学のあり方自体を対象とする研究と、その知見に基づく実践である。「再現性」に関する問題意識を中核にしつつも、科学を研究対象とする諸分野を包含する概念として、さらに近年は資金配分機関やアントレプレナーなども巻き込む運動として広がってきた。JST-CRDSは昨年度よりこの動向に着目し、その一部は2023年3月発行のレポート「拡張する研究開発エコシステム」1の中で報告した。以下では、その後2023年5月に参加した国際会議「Metascience Conference」での見聞も含め、メタサイエンスの研究・実践の広がりについて紹介する。

1.メタサイエンスとは何か

メタサイエンスは、字義通りには科学を「メタ」に研究することを指し、科学史、科学哲学、科学計量学、科学人類学など、科学を対象としてきた諸分野を包含しうる。こうした意味での「metascience」という言葉自体は前世紀から使われてきた2。一方、近年、ある種の文脈でmetascienceが分野・運動として盛り上がっている。

社会学者のDavid Petersonらによれば、このブームは1)2000年代後半からの「再現性の危機」3への問題意識の高まり、2)科学の計量的研究へのデータサイエンティストたちの参入(Science of Science)、3)オープンサイエンス運動、という三つの要素が交差するなかで出てきた4。公開された研究結果の多くが追試等で再現できない、いわゆる「再現性の危機」の問題が2010年代に心理学を中心に沸き起こり、他分野にも波及したが、この問題への構造的な改善に立ち上がった人々がメタサイエンスコミュニティの一つのコアをなしている。さらに、オープンサイエンスを含む今日の科学の様々な改善の余地に目を向け、そのための知見を求める機運も出てきた。そこにネットワーク科学やデータサイエンスの最新の手法を携えて研究者が学術情報を解析する「科学の科学(Science of Science)」の登場が重なり、メタサイエンスのブームが形成されたとの見立てである。なお、メタサイエンスと似た用語に「研究の研究(Research on Research)」「メタ研究(meta-research)」もあり、意味的な重なりをもって用いられている5

図:メタサイエンス運動の背景・構成要素・目的(筆者によるまとめ)

メタサイエンスは、科学の営みの理解を目指す記述的な側面だけでなく、研究開発のエコシステムの改善のためのエビデンスを得ていこうという介入的な姿勢も包含する6。そのため、アカデミアの研究者のみならず各国の資金配分機関や民間財団の関心も高い。そのことを反映し、 近年メタサイエンスを研究・実践する拠点が多数登場している(下表)。

メタサイエンスの研究拠点・イニシアティブ 説明
RoRI (Research on Research Institute) 2019年に英国Wellcome Trust、Digital Science社、英国シェフィールド大学、オランダのライデン大学が設立。公的資金配分機関(FA)や民間財団など21機関が参画(2023年5月時点)し、研究ファンディング、研究の評価、研究データ活用、研究者のキャリア、論文のピアレビューに関する研究プロジェクトを推進。
Astera Institute 2020年に設立された米国の非営利研究所。科学技術をレバレッジとして効率的に人類に恩恵をもたらすことを目指し、その柱の一つにメタサイエンス分野を位置づける。
Metascience Conference Center for Open ScienceやRoRIが2019年から隔年で開催しているメタサイエンスをテーマとした国際会議。後述。
ノースウェスタン大学 The Center for Science of Science & Innovation (CSSI) 2022年に米国ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に、Alfred Sloan財団等の支援を得て設立。ネットワーク理論などを活用した科学計量学を専門にするDashun Wang氏(The Science of Science(2021)著者)がディレクターを務める。
NBER Science of Science Funding Initiative 全米経済研究所(National Bureau of Economic Research: NBER)が科学への効果的なファンディングに関する研究・分析を対象に行う研究助成。Alfred Sloan財団の支援を得ている。2018、2019年の2カ年に9件のプロジェクトをファンドしている。
AIMOS (the Association for Interdisciplinary Meta-Research and Open Science) 2019年にメルボルン大学、スウィンバーン大学、ディーキン大学の研究者が設立。オーストラリアとニュージーランドの科学文化と実践を改善することを目的とした「メタ研究」を推進。2019年より毎年国際会議を開催している。
ウィスコンシン大学マディソン校 Metascience Research Lab (MSRL) 2020年に、ウィスコンシン大学マディソン校に設立された研究室。科学計量学、科学の科学、科学政策の専門性を背景に、政策や実務へのエビデンス提供を視野に入れた研究を行う。
Metascience Working Group 2022年、米国科学者連盟(FAS、科学に関する政策提言などを行う非営利団体)と独立系シンクタンクInstitute for Progressが共同で Metascience Working Groupを設立。ファンディングプログラム設計に資することなどを視野に、アカデミアと政策立案者との協働のプラットフォームとして活動していくと表明。

政府機関・公的資金配分機関、欧州・北米の民間財団に加え大学・研究機関の国際イニシアティブ(RoRI)、非営利研究所(Astera Institute)、大学に設置された研究拠点(ノースウェスタン大学 CSSI)など、拠点・イニシアティブの形態は様々である。これらの枠組みを通して、研究機関、民間財団、公的研究助成機関、民間企業などが連携しながらメタサイエンスの研究・実践を展開している。

2.国際会議 Metascience Conference

2019年より、メタサイエンスを主題とする国際会議Metascience Conferenceが2年おきに開催されている。3回目となる2023年は、米国ワシントンDC にて、オープンサイエンスを推進する非営利団体Center for Open Science(COS)と上述のResearch on Research InstituteとAIMOSの共催により開催された。本会議は、世界中のメタサイエンス系の実践者、政策関係者、資金配分機関が参加するメタサイエンス運動に関する象徴的なイベントとなっている。

Metascience 2023 Conference 概要
  • 主催:オープンサイエンスを推進する非営利団体であるCenter for Open Science (COS)、Research on Research Institute(13か国から21の政府機関・公的資金配分機関が参加するコンソーシアム)、 オーストラリアのAIMOS (the Association for Interdisciplinary Meta-Research and Open Science) が共催。いくつかの民間財団や出版社などが後援。
  • 開催日時:2023年5月9-10日の2日間
  • 場所: National Academies of Sciences(ワシントンDC)でオンサイト開催(+ストリーミング)
  • Webサイト:https://metascience.info/(外部リンク、2023年5月25日アクセス)

オンラインとのハイブリッドで行われ、現地参加者は筆者の体感では100~300人程度の規模であった。2日間の日程で、メイン会場での講演36件・パネルディスカッション3件と、サブ会場での参加型議論8件を実施。プレイベントとして、開催日前の2週間には10件のオンラインウェビナー形式のトーク・ディスカッションが行われた。


写真:メインのトークセッションが行われたNASの講堂

Center for Open Science代表のBrian Nosek氏は、科学の信頼性(trustworthiness)に関する講演を行った。「研究者の信頼性は研究のアウトカムではなくプロセスで決まり」、「その達成は個人ではなくシステムの課題である」7。したがってシステムとしての科学の現状を知り、改善していこうとNosek氏は訴えた。これは、会議全体の基調となるメッセージであった。

査読の問題、研究評価の問題、研究者の多様性の問題、研究キャリアの問題、AIが科学をどのように変えるかなど多岐にわたるトピックが扱われたなか、最多の演題で扱われていたのが、再現性(replicability)ないし再生可能性(reproducibility)に関連する問題であった8。メイン会場での講演の主だったものを表に示す9

登壇者/タイトル 内容
Brian Nosek (Center for Open Science) [テーマ:科学の信頼性(trustworthiness)全般]
学会を主催するCenter for Open Science代表のBrian Nosek氏の講演。一般人を対象としたサーベイから、科学者が「有能である」「正しい」とみなされる基準と「倫理的である」と見なされる基準は一致しないという結果を紹介。研究者のtrustworthinessは研究のアウトカムではなくプロセスで決まり、その達成は個人ではなくシステムの課題である。科学の信頼を損なうミスコンダクトの例である論文工場(paper mills)とハゲタカジャーナル(predatory journals)などは、データ共有、コード共有、プレレジストレーションなどのいろいろな手立てによって防止や検知しやすくできるが、それはあくまで対症療法である。根本原因としての報酬システムを変えていかなければならない。結語:Science is trustworthy because it does not trust itself. Be humble, calibrated, truth-seeking.
Emily Sena (University of Edinburgh)
演題:“A collaborative approach to meta-science”
[テーマ:研究成果の翻訳(translation)可能性]
前臨床研究(preclinical study)の動物実験のデータのメタ分析プロジェクトCOMARADESの紹介。従来より前臨床の動物実験の成果がヒトの臨床での有効性にtranslateしにくいことが問題視されている。原因には、1)実験条件の標準化のしすぎ、2)モデル動物におけるモデル化の失敗、3)出版バイアス(ネガティブリザルトが出版されない)などがある。 本プロジェクトの結果、実験デザインの改善、ガイドライン作りなどにつながったという。
[パネルディスカッション] Jordana Goodman (Boston University School of Law), Catherine Alfano (Northwell Health Cancer Institute), Hannah Rubin (University of Missouri)
モデレータ: Dan Larremore
演題:“Toward evidence-based strategies for improving diversity, equity, and inclusion in science”
[テーマ:研究現場の多様性・公平性・包摂性]
研究現場におけるDEI(Diversity, Equity and Inclusion、多様性・公平性・包摂性)を高める方策の有効性に関するエビデンスをテーマとする、3つの講演とディスカッション。 キャリアの特定の段階にある女性研究者に対するRCTを実施したNorthwell Health Cancer InstituteのMAVENプログラム、論文査読時のジェンダーバランスの悪さがその分野の多様性を下げる悪循環に着目した数理モデル研究、特許の発明者の「グループ」の多様性を調べたPatent Equity Projectの紹介。
Sarah de Rijcke(ライデン大学CWTS、RoRI共同代表)
演題:“Surveying the global uptake of research assessment reform”
[テーマ:研究機関における研究評価改革の進展]
研究評価改革の旗振り役の一人であるRijcke氏による講演。過去10年進む研究評価改革(research assessment reform)の実際の浸透度を調べるため、DORAとライデン大CWTSが実施するTARA(Tools to Advance Research Assessment)プロジェクトで米国の研究機関へのサーベイを実施。結果、米国では責任あるメトリクスと評価に関する国際的な運動への深い理解が見られなかったという。「インパクトファクターがCVに書いてあったら消すように言う」という回答者もいた一方で、「ずっと使ってきているから仕方ないのでは」と行ったトーンの回答も。そこは必ずしも情報の欠如ではない様々な要因がある。
Erin McKiernan (Open Research Funders Group, Community Manager/University of Mexico)
演題:“Evaluating Research(ers): Are we rewarding what we value?”
[テーマ:大学における研究者評価]
研究助成機関が形成するOpen Research Funders Group10のMcKiernan氏による、大学の評価体系に着目した調査の紹介。大学のミッションステートメントには、public engagementやcommunity engagementを通した公共財(public good)を追求するといったことが大抵書いてあるが、実際の教員評価の場面では必ずしもそれに沿った評価がなされていない。RPTプロジェクトでは、129大学から864件のRPT(reappointment, promotion, and tenure)ガイドラインを集めて分析し、インパクトファクターによる評価はまだ残存していることなどを明らかにした。2022年に始動した、HELIOS(Higher Education Leadership Initiative for Open Scholarship)プロジェクトには現在90を超える米国の大学が参加するなど、変化の兆しはある。
Pierre Azoulay(MIT スローン経営大学院教授)
演題:“Who stands on the shoulders of Chinese (Scientific) Giants?”
[テーマ:中国からの引用に着目した書誌計量研究]
科学者の生産性に関する研究などで著名な経営学者Azoulay氏による、中国の科学論文に着目した研究の紹介11。最終著者が中国/中国以外の研究者であること以外類似した論文のペアを比較した結果、中国の論文は(米国からの)引用数が28%下がる「China citation discount」効果があることが判明。たとえば、日本やドイツなどはこの効果はない。理由はいろいろ考えられるが、人的ネットワークの効果が説明として妥当。「クオリティの認知」などではなく、知られていないことが原因であると示唆される。
[パネルディスカッション] Richard Nakamura (もとNIH), Neil Thakur (The ALS Association), Alan Tomkins (NSF)
モデレータ: Stuart Buck (Vice President at Arnold Ventures)
演題:“Government Science Funders and Metascience”
[テーマ:ファンディング機関とメタサイエンス]
政府の資金提供者とメタサイエンスの関係に関するパネルディスカッション。 公的な科学への投資が現実世界の問題の解決につながることが重要との見解が基調。NIHにてメタサイエンスによって疾患研究へのファンディング先の決定を試みたNakamura氏など、オープンサイエンスやコンピュータサイエンスの誕生により科学が大きく変わる節目に立ち会い、それぞれの仕事に影響を受けたと述べる3名によって、メタサイエンスと公的研究資金の関係性についての議論を展開。
Raymond Cheng (Hypercerts Foundation)
演題:“Accelerating Academic Research with Impact Certificates”
[テーマ:ブロックチェーンを活用した新しい研究ファンディングスキームの提案]
インパクトのある研究ファンディングの実現を目指すHypercerts Foundation12が推進する「Impact certificates」13の説明。これは研究インパクトをトークン化して売買の対象とするもの。ブロックチェーンを活用し、研究が成功した後にファンディングが可能な「retrospective funding」などのスキームの構想が披露された。
Sean C. Rife (Co-founder and Director of Research Scite.ai.、社会心理学者)
演題:“scite: Identifying Highly-Replicated Research through Citation Analysis”
[テーマ:書誌計量分析のツール]
引用分析のためのプラットフォームSciteの紹介。社会心理学者のRife氏が、論文数の増大への対処と、研究の質の向上を目指して、2018年にScite.aiを創業。3400万件の論文をインデックスして引用関係を抽出し、引用の「タイプ」をsupporting, mentioning, contrastingに分類。 たとえば、「supporting citation」を論文の質の近似に使える。SciteはChatGPTの活用も始めている。
Dashun Wang (Kellogg Center for Science of Science and Innovation (CSSI))
演題:“Understanding Career Hot Streaks”
[テーマ:研究者キャリアに着目した書誌データ分析]
2022年に設立したノースウェスタン大学 The Center for Science of Science & Innovation (CSSI)を率いるDashun Wang氏による、研究キャリアで5年くらいの生産性が高い時期「Hot Streak」の存在を発見した一連の研究の紹介。Hot Streakが始まった徴候はなかなか見つかなかったが、ディープラーニングで解析したところ、テーマの探索期から利用(exploitation)期への展開がそれに当たるとする説明が有力に。研究者はどのようにピボットしているかについて研究中。政策を5%でもよくすることは重要であり、メタサイエンスをもっと生かしていくべき、とのコメントも。
Yian Yin (Cornell University)
演題: “Understanding public uses and funding of science”
[テーマ:論文以外の研究アウトプットに関するデータ分析]
科学の成果が科学の外でどのように使われているかについて、行政ドキュメント、メディア掲載、特許での引用を分析し、分野ごとの特色を可視化14。研究成果の公共的利用(public use)が行われるチャンネルは分野ごとに大きく違う一方、公的ファンディングの多寡とは強い相関をもっていた。
Michael Nielsen (Astera Institute)
演題:“How is AI impacting science?”
[テーマ:AIが科学をどう変えるかについての問題提起]
オープンサイエンス運動の旗振り役の一人である物理学者、Michael Nielsen氏によるトーク。Alphafold2の動向を個人的にサーベイした結果を披露し、そこから「AIは科学をどう変えるのか?」という議論を提起。「Alphafoldによる予測の方が、実験よりも「正しい」ことがありうるのか?」など、今後、生成系AIがもたらすメタサイエンスにとっての興味深い問いが多く出てくるだろうと指摘。

別室で行われたディスカッションのテーマは、「オープンサイエンス年におけるメタサイエンスの役割」「自然言語処理の科学での利用における可能性と課題」「メタサイエンスの地理的な多様性」などであった。

なお、CRDSからは2023年3月発行のレポート「拡張する研究開発エコシステム」15をもとに、日本の研究開発エコシステムに新たに登場しているアントレプレナー的な取り組みについて、メタサイエンスの文脈と紐付けた内容のポスター発表を行った(図)。


図:CRDSのポスター

3.メタサイエンスはどうなっていくか

このように、多彩な分野やセクターの人を巻き込む形で立ち上がりつつあるメタサイエンスだが、今後どこに向かうのだろうか。上記の会議で得た見聞をもとに、私見を交えた展望を述べる。

メタサイエンスの発散性と一体感

メタサイエンスは包摂的な概念であるゆえに、「どこまでがメタサイエンスなのか?」という定義問題がついて回る。「再現性replicability」の問題が中心にあるコミュニティであることは間違いないが16、論点は多岐にわたり、Metascience Conferenceの演題のラインナップも発散している印象を受けた17。一方で、メタサイエンスの用語の元に多様な分野と問題意識の人を集め、議論を始めることこそが意義なのだ、という理解も共有されつつあるようだ。同会議も、全員の顔が見える規模の開催だったこともあり、随所で意見交換がなされ、一体感が見られた。現状の規模を超えてコミュニティが広がったときに、「メタサイエンス」という概念が求心力を保っていられるかは課題と言えるかもしれない。

またメタサイエンスは科学の営みの理解を目指すだけでなく、より良くしていこうという実践的な面を併せ持つ。科学の実践をオープンにするという価値観に駆動された「オープンサイエンス」に比べれば、「メタサイエンス」は現状の把握を志向する記述的側面が強い一方、Brian Nosek氏は「メタサイエンスは新しいディシプリンではなく、実践である」と総括していた。このように「実践」であり「運動」であることが意識されている点に特徴がある18

方法論も多岐にわたる。コミュニティでは、論文の引用数を中心とする様々な指標が科学に良くないインセンティブをもたらしているという問題意識が共有されているが、その一方で、メタサイエンスの定量的な研究を行うためにはまさにその指標に頼ることになる。指標の弊害と、研究手法としての利用の不可避性がジレンマに陥らないよう、丁寧な議論と整理を重ねていくことも必要に思える。

参加者の分野の広がりと偏り

メタサイエンスに関心を持つ人々は多彩である。たとえば、Metascience Conferenceには、以下のような属性の参加者が見受けられた。

  1. ① 自身の分野の健全性(再現性その他)について問題意識を持ち、その現状把握や改善のためのメタ研究に取り組んでいる研究者。心理学やバイオメディカル系が多い。
  2. ② STSや科学哲学など、伝統的な「科学の○○学」(科学技術社会学、科学史、科学哲学、etc.)の研究者。
  3. ③ データサイエンスのバックグラウンドを持ち、定量的なメタ研究を本業としてやっている研究者。
  4. ④ 科学のシステム的な改善・変革を目指す新興企業・非営利団体の関係者。会議を主催するCenter for Open Scienceもこれに該当する。
  5. ⑤ メタサイエンスの知見を利用したいと考える、民間・政府系助成機関の職員。

このなかで最も多いのは心理学者をはじめとする①のアカデミア研究者ではあるものの、他の学会には見られないような参加者のセクターの多様性が見られる。

なお、現状では地理的な偏りが大きい。Metascience Conferenceの参加者の在籍国は、筆者の印象にはなるが、多い順に、米国、欧州、オーストラリア、南米(ブラジルが多い)、北米(米国以外)であった。アジアからの参加はおそらくなく、日本からの参加は筆者らのみであった。「メタサインス」という用語が流通しているのは、現状では米国、欧州、オーストラリアが中心のようである。

最後に特筆すべき点として、Astera Institute、Protocol Labs、Hypercerts Foundation、scite.aiなど、民間企業、あるいは民間非営利団体からの参加者が存在感をもっていた(上記の④)。これらの新しい団体では、専任のスタッフ(研究者を含む)を抱え、ビジネスとして、あるいは国や民間財団から助成を受けたプロジェクトとして、メタサイエンス系の研究や開発を行っている。研究開発のエコシステム変革を担っていく可能性がある彼らが集う旗印として、メタサイエンスは一つの機能を果たしていくと思われる。

メタサイエンスのこれから

「Metascience」と似た意味の言葉に、「Research on Research」、「meta-research」などがあり、必ずしもメタサイエンスという用語が定着していくかは分からない。しかし、科学という営みを理解し、それを改善していくために研究や実践を行い、その知見を共有する活動の実体としてのメタサイエンスはたしかに存在し、今後もその重要性は大きくなると思われる。その背景には、巨大化・複雑化する「営みとしての科学」の現状を知り、それが抱える様々な問題(再現性はその一つ)を解決していくための分野とセクターを越えた知見への需要がある。

国内でも、関連する学会や研究機関や取り組みは多く存在している。科学技術社会論、科学史・科学哲学、科学計量学、イノベーション研究など、メタサイエンスに関わる種々の学術分野、科学技術・イノベーション政策のためのエビデンスづくりを目指すSciREX事業19、オープンサイエンスに関するカンファレンスであるJapan Open Science Summit20、再現性の問題に対して向き合ってきた心理学を中心とするコミュニティ21もある。有志のメンバーが運営するポッドキャストMetascientia22はメタサイエンスの動きを早くからキャッチし、発信をしている。必ずしも「メタサイエンス」というラベルを用いなかったとしても、メタサイエンス的な関心と専門知をもつ国内の有識者・関心層が邂逅できる場は今後必要になるだろう。そうした場と、国際的なメタサイエンスのネットワークとがつながっていくことも、今後望ましいと思われる23

フェロー紹介

丸山 隆一(まるやま りゅういち)

CRDSフェロー

魚住 まどか(うおずみ まどか)

CRDSフェロー

注釈

  1. 科学技術振興機構研究開発戦略センター「拡張する研究開発エコシステム:研究資金・人材・インフラ・情報循環の変革に乗り出すアントレプレナーたち」(2023年3月)
  2. 例:Mario Bunge, Metascientific Queries (C. C. Thomas, 1959).
  3. Nature誌が2016年に1,576人の様々な分野の研究者を対象に行ったサーベイでは、「再現性の危機があるか?」という質問に52%が「深刻な危機がある」と回答している。またその背景には、またその原因としては論文出版へのプレッシャーなどのインセンティブ構造の問題があることが指摘されている。Baker, M. 1,500 scientists lift the lid on reproducibility. Nature 533, 452–454 (2016).
  4. Peterson, D., Panofsky, A. Metascience as a Scientific Social Movement. Minerva 61, 147–174 (2023). DOI: 10.1007/s11024-023-09490-3
  5. なお、「Science of Science」や「Research on Research」も新しい言葉ではない。藤垣ほか『科学計量学入門』(丸善、2004年)では、科学計量学(scientometrics)の創始者であるD.S.プライスにより「Science of Science」が提唱され、それを「広く研究一般に適用した概念」が「Research on Research」であると整理している。ただし、2010年代には、研究にまつわる膨大なデータが利用可能になり、またネットワーク科学の研究者がこの分野に流入してきたことによって、計量的な「Science of Science」は新たな局面を迎えていると言える。その象徴的な文献としては次など。Dashun Wang, Albert-László Barabási, The Science of Science (2021).
  6. Michael Nielsen氏らは、メタサイエンスを「科学社会学、科学哲学、科学史などの伝統的な分野や、Science of Scienceや科学政策などの分野ともオーバーラップを持つ」ものの、その目的が「記述」よりもシステムへの「介入」にあると述べている。Michael Nielsen and Kanjun Qiu, "A Vision of Metascience: An Engine of Improvement for the Social Processes of Science", 2022(外部リンク、2023年5月25日アクセス).
  7. 2日目の朝、登壇予定者がCOVID罹患で欠席したため急遽の登壇であったが、メタサイエンスが目指す一つの方向を示す力強いトークであった。
  8. 追試を行って再現性を調べるプロジェクトや、再現性を高めるためにregistered reportsなどの新しい研究実践がどれくらい普及しているかを調査した研究の報告など。
  9. メイン会場の演題のアーカイブがオンライン視聴可能。→YouTube再生リスト「Metascience 2023 Conference(外部リンク、2023年6月14日アクセス)
  10. 基金総額2000億ドルを超える。各財団がオープンリサーチを推進するための調査や情報共有などの活動を行っている。
  11. Qiu, S., Steinwender, C., & Azoulay, P. (2022). Who Stands on the Shoulders of Chinese (Scientific) Giants? Evidence from Chemistry (No. w30772). National Bureau of Economic Research.
  12. Protocol Labsの支援を得て2022年に研究者やエンジニアが設立。
  13. Impact Certificateのアイディアは、OpenAIでAI Safety等の研究を率いたPaul Christiano氏によって2014年頃に考案された。
  14. Yin, Y., Dong, Y., Wang, K. et al. Public use and public funding of science. Nat Hum Behav 6, 1344–1350 (2022).
  15. 注1参照。
  16. その点について、Metascience ConferenceではKevin Munger氏(ソーシャルメディアと政治などを専門とする社会学者)は「Against Replicability」というタイトルのポスターを掲げ、再現性(replicability)という基準を満たすものを科学と呼ぶことにするというなら、社会科学は科学でなくてもいい、などと、Metascience Conferenceへのアンチテーゼとも言える論点を提示していた。
  17. 会場では 「何でもありの感もあるね」、という立ち話も聞かれた。
  18. Metascience 2021 conferenceのパネルディスカッションにて。
  19. SciREX事業(外部リンク、2023年5月25日アクセス)
  20. Japan Open Science Summit(外部リンク、2023年5月25日アクセス)
  21. 参考:『科学』2022年9月号特集「再現性に向き合う心理学」(岩波書店)など。
  22. ポッドキャストMetascientia(外部リンク、2023年5月25日アクセス)
  23. Metascience Conferenceでは、地理的な包摂性を高める観点や、単純により多くのアイディアに触れたいという観点から、日本など現状プレゼンスのない国からのインプットが歓迎されていると感じられた。