第328回「材料開発 乱れ・変化生かす」
常識が転換
材料開発では長らく、原子配列のずれや成分のバラつきといった「乱れ」や「変化」は、強度や効率を損なわせ性能を下げる要因とされ、避けるべきものと考えられてきた。そのため、できるだけ均一で理想的な構造を目指すことが常識であった。しかし近年、この常識が転換しつつある。乱れを排除するのではなく、あえて活用することで、従来にない多様な機能を引き出そうとする研究が広がってきている。
乱れとは、材料の中で構造や性質が一様でない状態を指す。例えば、金属材料には異なる結晶の境界や微細な欠陥といったバラつきが存在する。鉄鋼や航空機用合金では、粒の大きさや組成のバラつきを制御し生かすことで軽さと強さを両立させており、乱れの活用は古くから実用技術として定着してきた。
近年ではこうした考え方が、半導体、電池材料、セラミックス、高分子など金属以外の材料系にも広がりつつある。例えば、結晶の欠陥や界面構造を意図的に導入し、電気特性や化学反応性を高める試みが進んでいる。
時間の経過による変化も重要である。材料は使用中に少しずつ構造が変わり、劣化する場合もあるが、逆にその変化を利用して性能を高めている例もある。合金を一定時間放置して強度を上げる「時効硬化」は金属材料の代表例だが、近年は電池や触媒などでも、動的に構造が変わることで機能が向上する材料が注目されている。変化を前提に設計することで、構造の安定した静的な材料では得られない性能を引き出す発想が広がっている。
こうした乱れや変化の構造と機能の関係は複雑なので、計算機シミュレーションやAI(人工知能)を活用する取り組みも進んでいる。巨大な原子集団を計算で再現し、どのような乱れが有効かを予測することで、実験の効率は大きく向上する。計測技術も進歩し、材料内部の微小な変化をリアルタイムで観測できるようにもなりつつある。理論、計測、製造をデータで結び付けることで、材料開発は経験頼みから予測型へと変わり始めている。
機能発現の起源
乱れを不具合ではなく機能発現の起源と捉える視点は、材料科学の発想を根本から変えるものである。金属材料で培われた知見が、半導体やエネルギー材料など多様な分野へと拡張され、複雑かつ変化する実材料を設計する時代が到来しつつある。この潮流は、エネルギー、環境、医療など幅広い分野で新たな技術革新を支える基盤となる可能性を持っている。

※本記事は 日刊工業新聞2026年3月6日号に掲載されたものです。
<執筆者>
眞子 隆志 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
東京大学大学院工学系研究科修士卒。電機メーカーにおいて、酸化物材料、携帯燃料電池、半導体実装などの研究開発に従事。19年から現職、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)、技術士(応用理学)。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(328)材料開発、乱れ・変化生かす(外部リンク)