第327回「ジェンダード・イノベーション 浸透を支援」
研究開発の過程で生物学的性(セックス)や社会・文化的性(ジェンダー)を考慮する「ジェンダード・イノベーション」への注目が広がっている。一方、海外と比較すると日本では検討が始まったばかりであり、研究者への支援の充実が求められる。
資金配分で動き
性差医学や、情報科学・AI(人工知能)、工学設計、環境・建築、心理学など幅広い分野で、ジェンダード・イノベーションの研究事例が蓄積されてきた。例えば疼痛の研究では、従来は主にオスのマウスを使用していたが、メスのマウスで追試をしたところ、痛みの経路や機序が雌雄で異なることが判明した。こうしたセックスとジェンダーに関わる研究成果は、研究の質の向上、経済的インパクトの創出、社会・倫理的な配慮にもつながり得る。
ジェンダード・イノベーションを促進するための政策の検討も進んでいる。第7期科学技術・イノベーション基本計画(2026-30年度)をはじめ、日本の中長期的な基本計画・戦略で政策論点に挙がりつつある。また資金配分機関でも新たな動きが見られ始めた。日本医療研究開発機構(AMED)は公募要領に「性差を考慮した研究開発の推進」に関する項目を設けている。
指針など策定
次の課題は、研究者を支援するための具体的方策である。その一つに、指針や教材の策定がある。現在の日本にはこれらが十分に整っていないため、新たに取り組もうとする研究者にはハードルが高い。例えば、日本語の「性」という言葉にはセックスとジェンダーの両方の意味が込められているため、どちらを意味しているのかが分かりにくいという問題がある。
国際的な研究コミュニティーを概観すると、欧州科学編集者協会などの学術団体や、カナダ保健健康機構やドイツ研究振興協会など各国の資金配分機関が、独自の指針や教材を提供している。例えば資金配分機関は、応募者や評価者がセックスやジェンダーを考慮しやすいよう、それぞれの助成対象分野で考慮が必要な事項を取りまとめるなど、手厚い支援を行っている。
現在の日本は、ジェンダード・イノベーションの考え方をより広く浸透させていく段階といえる。事例の収集や日本語に対応した用語の整理、周知などを含め、研究者を支援する具体的な方策が望まれる。

※本記事は 日刊工業新聞2026年2月27日号に掲載されたものです。
<執筆者>
杉本 光衣 CRDSフェロー(STI基盤ユニット)
東京大学大学院総合文化研究科修士修了。同大学院の博士課程に在籍しながら、24年から現職。科学技術・イノベーション政策の調査と戦略立案を担当。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(327)ジェンダード・イノベーション浸透を支援(外部リンク)