セックスとジェンダーを考慮した研究開発・イノベーションの推進 -ジェンダード・イノベーションの実現に向けて-
エグゼクティブサマリー
ジェンダード・イノベーション、すなわち、セックスとジェンダーを考慮した研究開発・イノベーションとは、「生物学的性(Sex)と社会的・文化的性(Gender)に基づいた分析を行う研究、およびその結果を取り込むことによって創出されるイノベーション」である。これは、研究の質の向上、経済的インパクト、社会的・倫理的配慮の意義において、よりよい科学的知識の生産やイノベーションの創出を目指すものである。
セックスとジェンダーは人間や動物にとって重要な要素・要因であるが、科学研究の過程でしばしば見落とされてきた。これは対処すべきリスクである一方、積極的に取り組むことで新しい研究開発・イノベーションに結び付くという認識が広がっている。2000年代以降、諸外国ではセックスとジェンダーの考慮を促進する制度化が進み、現在では各国の科学技術政策や資金配分機関、国際学術誌が、研究開発における考慮を推奨・義務化している。そのため日本の研究者も、国際共同研究や論文投稿に際し、セックスとジェンダーの考慮が求められつつある。しかし、日本では推進制度や支援の仕組みが十分に根付いておらず、研究者が個々に対応する状況となっている。
日本でも、政策レベルではこれらの課題がすでに認識されており、政策課題の一つとして「ジェンダード・イノベーション」の推進が議論されつつある。科学技術・イノベーション政策として、研究者や大学等研究機関への負担を抑えつつ、国際レベルの推進策を早期に実施する具体的方策の検討が急務である。
本戦略プロポーザルでは、科学技術・イノベーション政策の枠組みの下、主に競争的研究費制度において推進する三つの方策を提案する。
方策1:国の競争的研究費制度への「セックスとジェンダーの考慮」の組み込み
国の競争的研究費への「セックスとジェンダーの考慮」の組み込みを通じて、研究者や評価者、科学技術関係府省庁や資金配分機関など関係者にこれを考慮するきっかけを提供し、研究開発のデザインとプロセスの質を高める。国の競争的研究費制度下へ組み込むことで、研究者や大学等研究機関が個別に対応する負担をできるだけ小さくしながら、広範で迅速な定着を図る。この方策は、「(1)公的競争的研究費の提案書における「セックスとジェンダーの考慮」の項目設定と、研究開発評価の段階的な実施」、「(2)研究者、評価者、政策担当者などを対象としたガイドラインの策定と活用」、「(3)資金配分機関による実践状況のモニタリング、情報発信、トレーニングへの展開」という三つの施策で構成される。
方策2:ファンディングによるセックスとジェンダーを考慮した研究開発の加速
公的な競争的研究費制度の下でファンディング事業やプログラムを創設・推進し、日本におけるセックスとジェンダーを考慮した研究開発・イノベーションを加速する。医療・ライフサイエンスや情報技術分野に限らず広範な分野においても、セックスとジェンダーを考慮した研究開発の経験や知見、人材を創出・蓄積するとともに、その事業・プログラムに関わる研究者、大学等研究機関や企業など、幅広いステークホルダーの関心や意識を高めることが期待される。
方策3:科学技術・イノベーション政策としての制度的枠組みの整備
国際的な科学研究の潮流を踏まえ、第7期科学技術・イノベーション基本計画、第3期健康・医療戦略、第6次男女共同参画基本計画など、国の中長期的な基本計画・戦略においても政策論点に挙がっている。これらの基本計画や戦略は今後、関係府省庁や資金配分機関、大学等研究機関における取り組みに波及する。担当府省庁および資金配分機関は、上位の政策目標や計画を踏まえた上、各政策階層における政策やそれぞれの機関における具体的な施策として、方策1および方策2を明確に位置付け、実行することが求められる。
以上の方策は、研究開発の現場においてセックスとジェンダーを考慮することが文化として根付くための第一歩となる。知識やノウハウ、規範が浸透し、人材の厚みが増し、自律的な考慮が進む。さらに長期的には、全ての人に科学技術の恩恵がいきわたる、よりよい科学の実現につながることが期待される。

図 提案の全体像(CRDS作成)
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