2025年10月31日

第311回「新規材料開発 AIで加速」

知的活動に変革
AI(人工知能)の一種である大規模「言語」モデルは、膨大なデータを学習し会話を可能にすることで、人間の知的活動に大きな変革をもたらしている。材料研究開発においてもAIの活用が進み、多様な選択肢の中から目的に適した材料とその作製プロセスを効率的に見つけ出せる大規模「材料」モデルの構築と活用により、新規材料の発見や特性の向上が一層期待されている。

例えば、電気自動車のリチウムイオン電池(LiB)に使われている可燃性の液体が不燃性の固体に変われば、安全性が飛躍的に向上し、より多くのエネルギーを蓄えられることで航続距離の延伸も期待できる。このような革新的な技術開発や品質の向上は、空飛ぶ車など次世代技術の基盤にもなり得る。

データ共有カギ
こうした材料研究開発には、実験やシミュレーションから得られる多様なデータを集約し、データから材料候補を提案するAIの活用がカギとなる。

日本の強みの一つは、高度な生産技術とそれを取り入れた産学連携の開発現場を保有している点である。例えば2025年6月に東京大学など複数の大学と堀場製作所の共同研究グループが、小型AIロボットを活用し、燃料電池の製造工程を模した自動自律実験システムを開発したと発表した。AIが提案した材料サンプルを試作し評価する自動実験と、AIによる作製プロセスの自律的な探索を組み合わせたこのシステムにより、従来と比べ100倍以上の効率化を達成した。得られた成果は製造ラインの設計などに直ちに活用でき、産業界での実装が加速的に進むことが期待されている。

また海外では、複数の国が協力した研究開発が進んでいる。24年に8カ国の国際共同研究チームが、ディスプレーや医療機器などへの応用が期待される有機固体レーザー用の有望な材料を多数開発したと発表した。これはAIが複数の自動自律運転ラボからデータを収集し、次の実験計画を各ラボに自律的に割り振ることにより、膨大な数の実験が可能となったことで実現した。

日本でも、産学官が技術やデータを共有できる大規模な開発現場(拠点)を設置し、大規模「材料」モデルの構築といったさらなる技術の高度化と、それを活用する材料研究開発に取り組む必要がある。そのためには、各企業の秘密データを守りながら共有できる技術や仕組みも必要だ。こうした取り組みが進めば日本の国際的プレゼンスが高まり、海外組織との連携や国際協議への参画が進むだろう。

※本記事は 日刊工業新聞2025年10月31日号に掲載されたものです。

<執筆者>
大淵 真理 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

大阪大学大学院基礎工学研究科博士課程修了。民間会社研究所で材料・デバイスシミュレーションなどの研究開発に従事。24年より現職。ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(311)新規材料開発AIで加速(外部リンク)