第268回「AIで“研究自動化”進む」
実験を自動化
人工知能(AI)技術の進展や高性能な計算資源の普及、研究データのオープン化を背景に、高度なAI技術をさまざまな分野の科学研究で活用する取り組みが、AI for Scienceなどと称されながら進んでいる。
科学研究へのAI活用が進む中、AIとロボットを組み合わせることで、科学研究における実験の一部または全てを自動化する試みも進展している。
生命科学分野では、ロボットによる実験の自動化とAIによる条件探索や最適化を組み合わせる「ロボティックバイオロジー」が取り組まれている。2020年12月、理化学研究所を中心とする研究チームが、汎用ヒト型ロボットLabDroid「まほろ」と最適化アルゴリズムを組み合わせた自動実験システムを構築した。
そして22年6月、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から網膜色素上皮細胞への分化誘導効率を高める培養条件について、人間の介在なしに発見できることが実証された。これにより、生命科学における実験結果の再現性が低いとされる問題の解決や、研究者が単純作業から解放されることによる研究の効率向上などが期待されている。
論文執筆・査読も
実験だけでなく、科学研究のプロセス全体をAIによって自動化しようとする努力も始まった。24年8月、ベンチャー企業Sakana AI(東京都港区)を中心とする研究グループが、大規模言語モデルを用いて研究開発プロセスそのものを自動化する技術である「AIサイエンティスト」を開発したと発表した。
この技術は、まず与えられた研究テーマに基づいてアイデアを生成し、文献検索によって新規性を確認する。その後、アイデア検証のための実験計画を策定し、実行する。さらに、実験結果の分析や統計処理、視覚化を行い、成果を学術論文の形式でまとめる。この工程を、関連研究の引用や結果の考察も含めて人間の介入なしに行い、生成された論文を別の大規模言語モデルが査読する仕組みまで備えている。
現状では、人間が研究テーマを与える必要があるために完全に新規な研究アイデアを提示することはできず、事実とは異なる情報を利用して回答を生成するハルシネーションと呼ばれている課題など、検討すべき点は多数あるが、衝撃的な内容と言えるだろう。
科学研究のプロセスを自動化するこの技術は、科学研究の新たなパラダイムとなり得る極めて重要な潮流と言える。深刻な人口減少問題と切り離して考えられない研究力の低下を抱える日本にとっても、この技術は希望となり得る。日本がこの技術の進展に遅れると、あらゆる分野で他国の後塵を拝することにもなりかねない。そうならないよう、国を挙げた取り組みを期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2024年12月13日号に掲載されたものです。
<執筆者>
尾崎 翔 CRDSフェロー(システム・情報科学技術ユニット)
早稲田大学大学院創造理工学研究科修了。14年入職。産学連携事業、文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付(出向)、戦略創造事業での業務に従事し21年10月より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(268)AIで“研究自動化”進む(外部リンク)