第223回「台湾、産学官で人材育成」
高度人材を確保
台湾は、2013年から22年までの名目国内総生産(GDP)成長率が年平均4.4%と比較的高い経済成長率を維持している。その間、研究開発費の総額は年平均で約7.5%増えているが、研究者数は年平均2.1%の増加にとどまっている。
このような中、台湾は科学技術人材の確保を重視しており、科学技術政策を具体化した「科学技術発展計画(21-24年)」において、産学連携による育成環境の整備、重点産業での育成、海外人材の雇用などを掲げている。
企業も人材確保に力を入れている。代表的なハイテク企業である台湾積体電路製造(TSMC)では、近年の世界的な半導体需要の増加を受けて事業が拡大し、研究開発費はこの10年で約4倍となった。また、人員は約2倍となり、修士号や博士号を有する高度人材の割合は39%から51%に増加した。今後は台湾内に加え、日本、米国、ドイツでの工場新設に伴い、高度人材の需要がさらに高まると予想される。
官民で大学支援
高度人材の育成に向け、大学への支援も活発化している。TSMCは05年に台湾大学など4大学に研究開発センターを設置し、延べ3600人の学生が共同研究に従事している。また、19年以降、九つの大学に半導体課程を設け、半導体の設計、開発、製造などに関する科目を提供している。卒業単位には含まれないが、対象学年や専攻は不問で、課程を修了するとTSMCへの就職活動の際に考慮されるという利点があり、今まで約4000人の学生が履修している。
行政面では、科学技術人材の育成を強化するために「研究学院(大学院)」を期限付きで設立できる法律が21年に公布され、複数の国立大学が企業と共同で「重点科学技術研究学院」を設置した(表)。官民が費用を分担して、半導体など重点領域での大学院生の育成が行われている。台湾大学の研究学院では、22年TSMCなど4社と行政機関が計8億円を拠出し、留学生を含む83人の学生の学費や生活費を支援したほか、企業がインターンシップの機会を提供した。
日本では熊本でTSMCの操業準備が進む中、九州地域の大学や高等専門学校が半導体分野の人材育成に注力しつつあるが、先端半導体の生産、評価、研究を行える施設が少ない日本では、実践的な訓練を通じた高度人材の育成は容易ではない。先日、熊本高等専門学校が台湾成功大学の研究学院に学生を派遣することを発表したが、国や地域を越えた産学官連携による高度人材の育成は、わが国にとっても一層重要になるだろう。
※本記事は 日刊工業新聞2023年12月15日号に掲載されたものです。
<執筆者>
田子 智久 CRDSフェロー(海外動向ユニット)
同志社大学経済学部卒業後、総合化学メーカーに入社。感光性樹脂のマーケティング、電子材料の台湾・中国での製造販売会社の設立・経営を経て、電子材料の営業部長・事業部長(理事)などを歴任。21年より現職。
<日刊工業新聞 電子版>
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