第190回「2次元材料でデバイス革新」
先端半導体技術
社会のデジタル化を支える基盤技術である半導体集積回路は、世界的な半導体不足の中で経済安全保障との関係が強く認識されるようになった。半導体のサプライチェーン(供給網)の確保や自国での半導体の生産設備・生産能力の保有へ向けて、活発な動きのなかにある。特に、コンピューターにおける演算や人工知能(AI)処理の高速化・低消費電力化、通信における高速・大容量化・低遅延化、IoT(モノのインターネット)におけるセンシングの高感度化・低消費電力化などの要求から、ロジック回路などの先端半導体には今後もさらなる性能向上・低消費電力化が求められている。
一方、ムーアの法則を牽引してきた微細加工技術は微細化の限界が迫っており、従来の平面的な微細化・高集積化による性能向上は難しくなっている。この克服に向け、その基本要素であるトランジスタの構造をこれまでの平面的な構造から立体的な構造にして、実効的な専有面積を小さくする方向に開発が進む。
最近では2ナノメートル(ナノは10億分の1)世代に向けたシリコン(Si)などの薄いナノシートチャネルを用いたゲート・オール・アラウンド(GAA)構造と呼ばれるトランジスタの研究開発が進む。さらにその先の世代では、遷移金属ダイカルコゲナイド(TMDC)という新しい2次元材料をトランジスタのチャネルに用いる技術が期待されている。
異分野の連携
日本は半導体生産に関わる材料技術やプロセス装置、評価装置では世界的に強みがあるが、40ナノメートル世代以降の高性能な先端半導体ロジックの生産技術や生産設備を保有していない。これに対し、経済産業省の産業政策として2ナノメートル世代の技術の導入と開発が進められることになり、これからの半導体生産技術・生産能力の向上が期待される。
さらに、チャネル材料や製造プロセスが大きく変わる2次元材料を用いるその先の世代は、日本の先端半導体技術や産業が競争力を獲得する大きなチャンスと捉えることもできる。長期的な戦略を持って研究開発課題へ早期から取り組み、研究設備・研究体制の整備、産学連携、国際連携、人材育成を進めることが重要になる。
アカデミアと企業の研究者・技術者が連携し、日本の材料技術や装置技術の強みを生かして国際協調し、2次元材料を用いる新たな先端半導体技術に挑戦していくことを期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2023年4月7日号に掲載されたものです。
<執筆者>
馬場 寿夫 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
電気通信大学大学院電気通信学研究科応用電子工学専攻修士課程修了。NEC中央研究所、内閣府総合科学技術会議事務局(ナノテクノロジー・材料/ものづくり技術担当)を経て、12年より現職。工学博士。
<日刊工業新聞 電子版>
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