2022年6月10日

第151回「研究インテグリティー 関係者の連携不可欠」

利益相反の管理
米国連邦議会の報告などにより、中国が米国の大学・研究機関などの研究成果を組織的・戦略的に中国に移転させ、中国の産業競争力や軍事技術の向上につなげていることが広く知られるようになった。

これを受け、研究のオープン化、国際化に伴うリスクへの対応(研究セキュリティー)の強化の必要性も広く認識されている。

過度な規制の強化のみでこれに対処すれば、研究の自由や開放性、ひいては研究の活力を損ないかねないことから、研究コミュニティーとしても主体的に対応していくことが望まれる。

米国などでは、利益相反(責務相反を含む)に重点を置いた研究インテグリティー(研究の健全性・公正性)の強化を進めてきており、利益相反の管理は研究セキュリティー強化のための有効な手段であるとの認識が国際的に共有されつつある。

利益相反の管理は二つの段階に大別される(図)。

第1段階の情報開示については、開示内容などの標準的なルールができつつあり、わが国でも海外の事例も参考に対応を着実に進めていく必要がある。

リスク評価課題
一方、第2段階の開示情報を基にリスク評価し、対処することについては、各大学・研究機関などの経験を踏まえて案件ごとに判断がなされているものと考えられ、判断基準などは明らかになっていない。海外では、大学協会が事例の共有などを進めており、わが国においても、各大学・研究機関などの経験を研究コミュニティーとして共有するなど連携・協力していくことが求められる。

また、米英豪加など6カ国の大学協会が、安全・安心・持続可能な国際化に向けて協力する旨の共同声明を出すなど、国際的な協力も進みつつある。国内の事例は限られることから、海外の研究コミュニティーと連携・協力していくことも一案である。

さらに、海外では政府の国家安全保障機関と大学・研究機関などが連携する事例もみられることから、わが国においても、政府が把握した事例を研究コミュニティーに積極的に共有していくことも検討すべきであろう。

研究セキュリティーの強化に向け、リスク評価・対処に資する情報の共有を関係者間で進めるなど、関係者の連携・協力が不可欠となっている。

※本記事は 日刊工業新聞2022年6月10日号に掲載されたものです。

<執筆者>
村松 哲行 CRDSフェロー(科学技術イノベーション政策ユニット)

2003年素粒子論の研究で博士(学術)。ポスドクを経て04年文部科学省入省。入省後は、大学や他府省への出向を経つつ、主に科学技術政策を担当。21年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(151)研究インテグリティー 関係者の連携不可欠(外部リンク)