第146回「テラヘルツ帯利用 無線・光融合基盤を創出」
7G見据える
近年、高度なデジタル社会の実現に向け、高速・大容量・低遅延・多数同時接続・低消費電力・セキュアな次世代の通信技術が期待されている。第5世代通信(5G)に代表される移動無線通信は高速・大容量化が進み能力的に光通信との差が小さくなっており、今後は無線通信技術と光通信技術のそれぞれの特長・利点を生かしたネットワーク構築が重要になっている。
一方、これまで無線通信の高速化・大容量化は、数百メガ(メガは100万)―数ギガヘルツ(ギガは10億)の周波数領域を用いて、限られた周波数帯域の中で主に通信方式の高度化や多重化により行われてきた。
しかし、2030年頃のビヨンド5G/6Gやその先(7G)を見据えた場合、広い周波数帯域の確保の点から数十ギガヘルツのミリ波帯からさらにその上のテラヘルツ(テラは1兆)帯(0.1テラ-1テラヘルツ)まで利用する技術開発が不可欠になる。この周波数領域は「テラヘルツギャップ」と呼ばれて、エレクトロニクス技術と光(フォトニクス)技術のいずれにとっても難しい領域であり、さまざまな技術的課題がある。
異分野終結
今後取り組むべき研究開発課題としては、テラヘルツ帯の利用に向けた研究開発、無線通信と光通信の高度利用に向けた研究開発、低消費電力化・高信頼化・低価格化に向けた研究開発、技術進化を支える基礎科学・材料の研究開発がある。これらの解決には、これまでの無線通信と光通信、エレクトロニクスとフォトニクスの知見や技術をうまく活用し、無線・光融合基盤技術を創出することが重要である。
このような研究開発を効率的に進めていくために、長期的な視野に立ち、高度な高周波特性評価が可能な共用施設、デバイス・モジュールなどの試作が可能なデバイス作製の拠点、機能検証可能な研究拠点などの整備、長期的なファンディング、国際標準化を見据えた産学官連携・国際連携、無線・光融合を主軸とする異分野が集まる新たな研究コミュニティーの形成が不可欠である。
次世代通信でいつでもどこでも確実につながり、リアルタイムに大量のデータ取得や機器の遠隔操作ができる世界を目指し、企業とアカデミアの研究者・技術者が一緒になって、テラヘルツギャップを埋めていくことを期待したい。
※本記事は 日刊工業新聞2022年4月29日号に掲載されたものです。
<執筆者>
馬場 寿夫 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)
電気通信大学大学院電気通信学研究科応用電子工学専攻修士課程修了。NEC中央研究所、内閣府総合科学技術会議事務局(ナノテクノロジー・材料/ものづくり技術担当)を経て、2012年より現職。工学博士。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(146)テラヘルツ帯利用 無線・光融合基盤を創出(外部リンク)