第134回「産学橋渡す人材カギに」
プロの存在必須
産学連携が進んでいる。文部科学省によれば、企業と大学との共同研究件数は2万9000件を超え(2019年度)、10年前から倍増。特許のライセンスなどによる技術移転や、アカデミアの技術シーズを元にしたベンチャー企業もこの間伸び続けている。
企業にとっては社外の知見を採り入れるチャンスとなり、大学にとっては対価を得つつ研究成果を社会に出すチャンスとなる。さらに今日、地球規模の社会課題への対応において、産学を包含した「イノベーションエコシステム」の構築が叫ばれる。陰りが指摘される日本の「産の競争力」と「学の研究力」の底上げから、社会変革の駆動まで。産学連携にかけられた期待はかつてなく高い。
しかしミッションや組織論理を異にする産と学。両者の協働は自然には進まない。そこには、双方の論理や利害に精通した「橋渡しのプロ」という立役者たちの存在が欠かせない。
役割の壁壊す
21年、私たちは、大学などの産学連携部門、アントレプレナーシップ教育、技術移転機関、ベンチャーキャピタルなど、産学橋渡しの現場で奮闘する実務者・研究者を招き、日本の産学橋渡しの現状と課題について議論を重ねた。そこでは主に八つの観点から課題が提起された(表)。
海外のトップ大学のような高度な特許戦略が展開できていないこと。日本の大学などでは、外国特許を戦略的に出願・維持・活用するための資金がまだ不足していること。スタートアップ支援環境の東京への偏在など、実務の最前線で多くの課題が残ることが見えてきた。
印象に残ったのは、「産・学・官で役割の壁を作る発想はそろそろやめよう」との発言だった。企業、大学、公的機関など、それぞれを「暫定的な持ち場」と位置付け、垣根を随時またぎながら「社会のため」に働く。今はそんな時代ではないかと、何名かの識者が口をそろえた。産と学、そして官、ミッションや強みは確かに異なり、だからこそ協働の価値がある。しかし中にはセクターを越えて転身し、異なる組織論理への精通を強みにエコシステムを「混ぜる」人々がいる。産学橋渡しのボトルネックを解消していくために、そうした橋渡しのキーパーソンたちが活躍できる環境作りが求められている。
※本記事は 日刊工業新聞2022年2月4日号に掲載されたものです。
<執筆者>
丸山 隆一 CRDSフェロー
東京工業大学総合理工学研究科修士課程修了。出版社勤務を経て2020年より現職。SDGsや産学連携についての調査業務に従事。
<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(134)産学橋渡す人材カギに(外部リンク)