2021年8月13日

第112回「「研究開発の俯瞰報告書」より⑤ コロナ後の世界 グリーン・デジタルけん引」

米中欧の戦略
2021年1月に就任した米国のバイデン大統領はパリ協定への復帰と、50年の二酸化炭素(CO2)排出量実質ゼロに向けた大型投資を決めた。未来の産業と位置付ける人工知能(AI)や量子などに対する研究開発投資を前政権から継続して加速する方針である。

一方、中国は建国100年に当たる49年までに世界一のイノベーション強国になることを目標に、半導体や部材の自給率7割を目指す「中国製造2025」への追加投資を計画しているもようだ。欧州では研究イノベーション助成プログラム、ホライズン・ヨーロッパ(21-27年)が始まり、中でも気候変動対策とデジタル移行を重点にした戦略的投資を推進する。

COVID-19の感染拡大は各国の研究開発活動に大きな影響を与えた。ワクチンや治療法の研究を除いて多くの大学や研究機関が活動を一時停止し、越境移動が制限されたことで、従来当たり前とされてきた研究開発のあり方が変わり始めている。

ワクチン開発で力を発揮したスタートアップを支援する仕組みの強化や、データ共有のあり方など、研究開発環境の整備やデジタル化もより一層進むことが予見される。ポストコロナの世界はグリーンとデジタルを両輪にけん引されていくだろう(グリーンについては本連載第61回、62回、78回などを参照)。

主権確立 急ぐ
ポストコロナ時代において急速に進むデジタル変革(DX)は米中と欧州では状況はやや異なる。B to Cプラットフォーム産業で米国の「GAFA」、中国の「BAT」は明らかに欧州の先を行っており、対する欧州では21世紀も研究開発の自由と企業の産業競争力を維持するために域内の「デジタル主権」確立が急がれるとの危機感が広がっている。

これを受け、欧州では欧州の価値や倫理にのっとった規制や標準を整備していくという戦略を打ち出している。B to B市場ではこれまでのところ寡占的プラットフォームはなく、ドイツで進められているインダストリー4.0(第4次産業革命)のリーダーシップの下、各国で細分化された欧州のサービスを標準化して革新的なプラットフォームとビジネスモデルを作製することを目指している。20年6月には欧州独自のクラウド・データインフラ構築を目指した「GAIA-Xイニシアティブ」が発足するなど、米中に依存しない独立した産業基盤構築に尽力する構えだ。

※本記事は 日刊工業新聞2021年8月13日号に掲載されたものです。

澤田 朋子 CRDSフェロー(海外動向ユニット)

00年ミュンヘン大学政治学部大学院修了(国際政治学専攻)。帰国後はIT系ベンチャー企業でウェブマーケティング事業の立ち上げに参加。13年より現職。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(112)「研究開発の俯瞰報告書」より(5)(外部リンク)