2021年8月6日

第111回「「研究開発の俯瞰報告書」より④ ナノテク・材料技術  異分野融合・データ活用」

2021年4月、政府は「マテリアル革新力強化戦略」を策定した。

これは過去、わが国が推進してきたナノテクノロジー・材料分野の戦略を発展、強化するものだが、マテリアルのイノベーションを通して、「ソサエティー5.0」の実現、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の達成、資源・環境制約の克服、強靭な社会・産業の構築などを迅速に進めようとするものである。

国際競争 激化
現在、マテリアルを取り巻く外部環境は大きく動いている。このことは、米中覇権争いや新型コロナウイルス感染症の流行などによって、あらわとなったグローバルサプライチェーン(供給網)への不安、カーボンニュートラル(温室効果ガス排出量実質ゼロ)に向けた動きの急激な進展、世界各国で技術的優位性を確保するために行われる戦略的科学技術投資の加速などに見てとれる。

日本は伝統的に、マテリアル研究開発で基礎・応用ともに高い競争力を示してきたが、この分野における国際的競争は激しさを増しており、いつまでも過去の優位に安閑としていることはできない。

戦略の2本柱
図に示した情報通信技術(ICT)応用、ライフ・ヘルス応用、環境・エネルギー応用に関係した六つの社会ニーズに関しては、いずれもナノテクノロジー・材料分野にかけられている期待が大きく、これまで以上にこの分野の研究開発効率を上げていく必要がある。ここで重要になってくるのが、異分野融合とデータ活用である。

近年の科学の最前線はナノ×バイオ、材料×地球科学のように異なる分野の先端知を融合することにより、初めて先に進むことができる状況にある。異なる専門の技術者・研究者が互いの領域に踏み出しながら協調していく異分野融合は、科学技術の最先端を切り開くためには不可欠である。

また、非常に複雑精緻化しているマテリアルの研究開発の効率を向上させるため、従来の試行錯誤的手法ではなく、コンピューターの進展で高度化するシミュレーションやデータ科学を積極的に材料の設計に活用する研究開発手法の幅広い導入も求められている。こちらも、ナノテクノロジー・材料技術とデータ科学の異分野融合と捉えることもできる。

最初に述べたマテリアル革新力強化戦略の中においても異分野融合とデータの活用は大きな柱となっており、今後、わが国が強化するマテリアル研究開発の中心的な方向がここに定められているといっても過言ではない。

※本記事は 日刊工業新聞2021年8月6日号に掲載されたものです。

眞子 隆志 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。NECにおいて酸化物材料、携帯燃料電池、半導体実装などの研究開発に従事。19年より現職、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発戦略立案を担当。博士(工学)、技術士(応用理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(111)「研究開発の俯瞰報告書」より(4)ナノテク・材料技術(外部リンク)