2021年7月2日

第106回「先端研究機器 成果生むサイクル課題」

研究成否を左右
研究開発における装置やソフトウエアなどのツールは、資金や人材とともに研究の根幹をなす。近年、研究においてもデジタル変革(DX)が進み、これらツールにはますます高度な性能が求められるようになっている。本連載では代表的なツールである計測・分析や加工・プロセスに用いる先端研究機器を取り上げ、2回にわたって、その動向と課題を紹介する。

生命や物質の未知なる構造の解明、宇宙・気象観測、新材料の創製など革新的な研究開発において先端機器の役割が増している。新たな機器の登場が研究開発にゲームチェンジを起こし、普及に伴いイノベーションが進展する。競争の激しい研究において先端機器の有無は成否を左右するが、機器を開発して世界の研究現場へ届けるのは企業である。日本にとっても重要な機器産業の動向を探った。

世界市場10兆円
放射光のような大型施設と少額の汎用機器を除くと、機器産業の2018年の世界市場は約10兆円規模である。そのうち、計測・分析機器が約5兆2000億円、加工・プロセス機器が約4兆7000億円である(図)。

計測は「科学の母」とも言われ、電子顕微鏡や質量分析装置、シーケンサーなどは、多くの分野の研究に欠かせない。米国は世界の計測機器産業において実に58%のシェアを有する。シーケンサーをはじめとするライフ系分野の機器の規模・シェアで、他国を圧倒する。第2位である日本の計測機器のシェアは10%ほどで、ドイツ企業が続く。日本の強みは顕微鏡などであるが、ライフ系機器のマーケットには、ほとんど参入できていない。

半導体関連を中心とする加工・プロセス機器に関しても米国が強いが、次ぐ日本企業は25%(1兆2000億円)の高いシェアを持つ。半導体の世界的活況に際し、日系メーカーは気を吐く。しかし、EUV(極端紫外線)装置といった最先端のリソグラフィー装置はオランダ企業の独占状態にある。かつて日本企業は世界に先駆けてリソグラフィー装置の開発に成功し、強い競争力を誇ったが、現在の最先端機を開発することはできなかった。同様に質量分析装置やシーケンサーなどでも、日本は原理の発見や初期の技術開発に先行したにもかかわらず、現在、そのシェアの過半は海外企業が持つ。

課題は、機器開発の技術的成果を強い産業に成長させ、それを利用する研究開発でもいち早く成果を生むサイクルにある。

次回はその課題を克服する方策を考察する。

※本記事は 日刊工業新聞2021年7月2日号に掲載されたものです。

魚住 まどか CRDSフェロー(企画運営室)

京都工芸繊維大学大学院バイオベースマテリアル学専攻修了。自然科学研究機構分子科学研究所、物質・材料研究機構を経て19年より現職。分野横断的な検討が必要なテーマの調査に携わる。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(106)先端研究機器 成果生むサイクル課題(外部リンク)