2021年6月18日

第104回「オペランド計測で課題解決」

イノベ推進
「オペランド計測」をご存じだろうか。「オペランド(operando)」とは「動作中の」「活動中の」といった意味を持つラテン語である。オペランド計測としては、使用・動作環境下における対象の時間変化に着目した計測のことを意味しており、最近見かけるようになってきた。例えば、充放電中の二次電池内部の様子、結晶が成長する様子、触媒が反応する様子など、ありのままの姿をオペランド計測できる技術が発展してきている。

近年、環境・エネルギー問題への対応が求められる中で、材料・デバイス分野におけるイノベーションに期待が寄せられている。再生可能エネルギーの大規模導入を可能にする二次電池、温室効果ガスを資源化する触媒、環境負荷の少ないプラスチックなどである。それらの要請に合わせて、使用・動作環境下での計測対象の機能を解明し、イノベーションを推進する技術として、オペランド計測に注目が集まっている。優れた研究成果が生まれ始めており、材料やデバイスなどの高機能化が実現した例も出てきた。

研究者連携カギ
この流れを止めることなく、より一層加速させることが必要である。もはや環境・エネルギー問題への対策は待ったなしの状態にある。材料・デバイス分野でのイノベーション推進のため、オペランド計測の観察能力をさらに向上し、材料やデバイスの高機能化を強力にサポートできる技術にしていくことが求められる。

さらにオペランド計測の対象をバイオ・ライフサイエンス分野にまで拡大することも期待される。ヒト体内の細胞やたんぱく質の動きが観測できるようになれば、疾患の原因究明や治療法・医薬品開発が高速化できる。新興感染症に対するワクチン開発にも貢献できるだろう。

オペランド計測を社会課題の解決につながりやすい技術にしていくために、材料、デバイス、バイオなど応用分野の研究者が開発段階から計測技術の研究者と連携して進めるのが効果的である。方向性をあらかじめ絞り込んでオペランド計測の技術開発を進めることで、イノベーションの可能性が高まる。今後、応用分野の研究者が深く関わり、オペランド計測をさらに発展させていくことが重要であろう。

※本記事は 日刊工業新聞2021年6月18日号に掲載されたものです。

赤木 浩 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

京都大学大学院理学研究科博士課程修了。日本原子力研究所、日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構(QST)にてレーザー利用の分子計測技術などの研究開発に従事した後、現職。量子技術、計測技術分野の戦略立案を担当。博士(理学)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(104)オペランド計測で課題解決(外部リンク)