2021年4月23日

第99回「計算社会科学で議論深化」

仮想社会 活用
社会のさまざまな様相をとらえるビッグデータ(大量データ)とデータ解析やシミュレーションといった高度な計算技術を用いて社会現象を分析する、計算社会科学と呼ばれる学問領域が日本でも広がりを見せている。日本では2016年に経済学、社会学、情報学といった分野の研究者が集まって計算社会科学研究会を発足させ、21年3月には計算社会科学会と名称を変更して発展を続けている。

現在の計算社会科学は社会現象の分析が主たる研究内容だが、シミュレーションを分析だけでなく設計に利用したい。データを使って社会を仮想的にデジタル化した、いわば仮想社会を活用できれば、社会に適用するコト、例えばインフラの導入・変更や制度の新設・変更などが、社会にどのような影響を及ぼすかをシミュレーションできる。シミュレーション結果を子細に検討することで、より良いインフラや制度の導入につながる。

仮想社会を活用するには、データをもとにした仮説としての社会モデルが必要となる。ここに社会科学の知見を生かしたい。

一方、情報科学は、仮想的なヒトを大量にシミュレーションする高速化技術や、現実の社会の動きとシミュレーション結果を一致させるデータ同化のような技術の開発が必要だ。

議論 活性化
社会の設計には住民、政府、自治体、事業者などさまざまなステークホルダーが関係している。どのような社会を作っていくのか、というステークホルダー間の議論を、仮想社会シミュレーションが深めることを期待している。そのためには、技術開発だけでなく、どのようなデータ、パラメーター、モデルを利用して、どのようなシミュレーションを行っているのか、ということをステークホルダーが検証できるようにすることがとても大切だ。

シミュレーション結果とその過程を透明化した上で、シミュレーションの結果を妄信することなく、あくまでも可能性でしかないことを前提に、ステークホルダーが議論を重ねて現実の施策を決定していかなければならない。

ステークホルダーの議論を活性化するという意味でも、ソサエティー5.0の実現に向けて、シミュレーションをはじめとする計算社会科学への期待は大きい。

※本記事は 日刊工業新聞2021年5月14日号に掲載されたものです。

青木 孝 CRDSフェロー/ユニットリーダー(システム・情報科学技術ユニット)

東京大学大学院情報工学専攻修士課程修了。富士通研究所にてロボットの研究・開発に従事後、スーパーコンピューター「京」の開発や研究所技術事業化のためのマーケティングを担当。18年から現職。

<日刊工業新聞 電子版>
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