2021年1月22日

第85回「リサーチトランスフォーメーション 研究開発を変革」

変わる研究環境
昨年来、世界の研究開発活動は、他の社会・経済活動と同様に多大な影響を受けている。とりわけ大学の入構制限が長期化し、教育・研究活動は全国的に停滞した。産業界や国の研究機関では相当程度持ち直しているものの、新型コロナ以前と同じ状況ではない。

わが国の研究開発現場の再起動は、新たなかたちは、いかにあるべきか。国際協調しつつ、国全体の研究力向上につながるかたちが求められる。分野による違いや組織の状況、都市部と地域部によっても現場は多様である。

そこで私たちは、今後も起こりうる新たな感染拡大に耐えながらも止まることのない、“強靱な研究開発環境”を日本全体にわたって築くべく、リサーチトランスフォーメーション(RX)という概念を掲げリポートを公開した。

RXとは、新たな研究開発の姿へ向かう変革を指す造語である。今、社会・産業だけでなく研究開発も、新たな時代の新たな姿へと変わらなければならない。それはCOVID-19を経たがゆえの進化・高度化であり、これまでの延長線だけでは開けない地平に挑むために必要な変革である。

RXの実現にはデジタル変革(DX)が重要な手段となりうる。しかし、DXは目的ではない。DXを駆動力にして、研究開発のシステム全体を新しい姿へ導く変革がRXである。

「リアル」の再考
実験に遠隔化システムを導入することや、自動化によるラボの省人化などはすでに動き始めている。しかし未成熟で、全体整合的ではなく、広くその利便性を享受できるように標準化し、現実的なコストで導入可能とするための技術開発など、課題は山積である。

研究関連人材の新しい働き方や、人の移動・時間の使い方が変化していく中での組織構造・雇用環境の見直し、共同研究や学会の新形態、労働集約的な研究開発環境からの脱却が課題である。研究において、リアルでこその価値とは何か、その在り方の再考が求められよう。

COVID-19の衝撃を、日本の研究システムの旧弊・弊害を構造転換する機会にすべきであるし、わが国の科学技術力再生の唯一無二の機会と捉えて変革を遂げることを提案したい。次回以降の本欄では数回にわたり、RXの先行事例や海外動向を紹介していく。

※本記事は 日刊工業新聞2021年1月22日号に掲載されたものです。

永野 智己 CRDSフェロー/総括ユニットリーダー

学習院大学理学部化学科卒、グロービス経営大学院経営学修士(MBA)。主にナノテクノロジー・材料・デバイス・計測技術分野の戦略立案を行ってきた。JST研究監、文部科学省技術参与を兼任。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(85)リサーチトランスフォーメーション 研究開発を変革(外部リンク)