2020年6月5日

第54回「計測インフォマティクス データ基盤で効率解析」

推定処理が必要
放射光、中性子などの大型研究施設や実験室などに設置される計測装置は、物質・材料や生命科学・医療などさまざまな分野に浸透し利活用されている。最近における計測機器のコンピューター制御技術の進歩とデータストレージの大容量化に伴い、計測にデータ科学を融合させた「計測インフォマティクス」と呼ばれる新たな分野が生まれてきた。

計測技術の進展により、高速・高繰り返し計測や複数パラメーターの同時計測が可能になったため、計測データは大容量化している。また、極度に短い時間、微細な空間で起こる現象の計測も可能になったが、得られる信号が微小なためノイズの影響を大きく受け、正確な計測データの取得が難しい。

したがって、このような大量かつ不完全な情報からの計測値の予測や複数計測情報の統合、事前知識による補完など、十分な計測結果を得るために高度な推定処理が必要とされる。この課題を解決する手法として、計測インフォマティクスに大きな期待が寄せられている。

研究者間で共有
計測インフォマティクスが目標とするのは、高精度で自動化された物理量計測に加えて、人工知能(AI)で計測データの意味を分析・解釈する計測やその結果から次の処理に対する計画までを自律的に行う計測である。最近では、数千―数万に及ぶ膨大な実験スペクトルを自動的に取得、解析できるので、専門知識や職人技がなくても物質の構造や電子状態に関する情報が得られるようになった。

計測インフォマティクスには大きく二つの研究開発課題がある。一つは情報学・統計数理を用いたデータ解析や大量データの迅速・高精度解析に必要となる手法の開発である。もう一つは、このデータ解析を可能とするAI技術を具体的な計測対象に応用し、新現象の発見や原理解明につなげることである。これらの課題には、データ解析だけでなく、情報、物理、化学、生物など多様な分野からの研究者が連携して取り組む必要がある。

大量の実験データが容易に得られるようになった半面、多くのデータが解析されずに蓄積され続けている。計測データを蓄積するだけでなく、研究者間で共有することによって解析を効率的に行えるデータ蓄積・活用システム基盤の構築も重要と言えよう。

※本記事は 日刊工業新聞2020年6月5日号に掲載されたものです。

八巻 徹也 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

東京大学大学院工学系研究科修了、博士(工学)。日本原子力研究所(当時)、日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構にて量子ビーム材料科学の研究開発を経て現職(執筆時)。文部科学省「光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)」のアドバイザリーボードメンバー(執筆時)。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(54)計測インフォマティクス、データ基盤で効率解析(外部リンク)