2020年5月22日

第53回「サイバーフィジカルシステム センシングで高度化」

実空間データ
高度なサイバーフィジカルシステム(CPS)を築くためには、人工知能(AI)などの新たな情報処理技術や高速大容量ネットワーク技術と並んで、現実の世界(フィジカル空間)の多種多様な情報(実空間データ)を取得するセンシング技術が重要になっている。この応用分野には、自動運転、ロボット、健康・医療、音声認識による自動翻訳などがある。例えば、自動運転には車の状態や周囲の状況を正確に把握するために、ジャイロスコープ、GPS、LiDAR(レーザーレーダー)、可視光や赤外線のイメージセンサー、マイクロ波レーダーなど多様なセンサーが必要である。

センサーの中でも、画像・映像を取得するイメージセンサーと、加速度や圧力、音などの多様な物理量を検出・測定可能なMEMS(微小電気機械システム)センサーが最も重要であり、その利用も拡大している。このMEMSセンサーの技術的課題としては、チップ面積や消費電力の減少、ノイズ低減、異なる要素の集積化などがあるが、現実的な解の有無を含めて、原理検討や材料開発から取り組む必要がある。

化学センサー
今後は物理センサーに加え、健康・医療などの応用分野で安定して使いやすい化学センサーの開発も重要になる。バイオマーカーの検出、呼気の分析などに用いる化学センサーとしてイオン感応性電界効果トランジスタ、触媒燃焼型ガスセンサーなどがすでに実用化されているが、使用の都度調整を必要とし、センサー表面の清浄・活性化に高温加熱処理が必要で低消費電力化が難しいなどの問題がある。このため、IoT(モノのインターネット)用途に長期間安定して使える化学センサーの斬新なアイデアが待たれる。

センサーの研究開発は産業に直結し、その進歩や展開は速い。また、ここではセンサーの高感度化・低消費電力化だけでなく、高信頼化、小型軽量化、低コスト化、プロセス技術の高度化など生産に密接な研究開発課題もある。

このため、アカデミアの研究開発成果を企業で実用化するという従来型の研究開発プロセスでは、速度の点からも成功確率の点からも十分な機能を果たせなくなっている。これからは、アカデミアと産業界が当初から一緒に取り組み、日本発の魅力的なセンサーの創出に挑戦していくことを期待したい。

※本記事は 日刊工業新聞2020年5月22日号に掲載されたものです。

馬場 寿夫 CRDSフェロー(ナノテクノロジー・材料ユニット)

電気通信大学大学院電気通信学研究科応用電子工学専攻修士課程修了。NEC中央研究所、内閣府総合科学技術会議事務局(ナノテクノロジー・材料、ものづくり技術担当)を経て、2012年より現職。工学博士。

<日刊工業新聞 電子版>
科学技術の潮流(53)サイバーフィジカルシステム、センシングで高度化(外部リンク)